第十八話
階下から漂う香ばしい匂いで目が覚める
カーテンを開けると朝日が差し込んできた
この時間に目が覚めるなんて珍しいな、と思いつつ身支度を調え、朝食目指して階段を降りる
私がヴィラの屋敷を襲撃してから2日
ヴィラは逮捕された
屋敷で見つけた不正の書類を無視しないでてくれたらしい
今のところ私には捜査の手は伸びていない
アルに探らせたところ下手人は今だ不明ってことになってるらしい
怨恨の線で調べてるらしく直接は何の関わりもない私が疑われることはないだろう
まだ子どもだから大丈夫だと思うけどテオ君とエレナちゃんは念のために宿に置いている
「おっ?今日はやけに早いな」
下に降りると最初に反応したのはテオ君だった
もの珍しそうにしてる
失礼な、自分でもそう思ったけどさー
「おはようございました カイリさん 今日は早いですね」
「・・・おはよ」
テオ君の声で私に気づいた二人がこっちによってきた
あーこのツーショットは癒されるわ
「エレナちゃんルーちゃんおはよう」
「朝ご飯食べますよね?ちょっと待ってくださいね」
「は~い」
エレナちゃんが朝ご飯が乗ったトレイを私のところまで運んできてくれる
朝と夜の忙しい時間帯は二人はお手伝いをしている
エレナちゃんが何かお手伝いできないかとおばさんに相談したらしい
一応私は2人の宿代を払ってるんだけど2人は何か思うことがあったんだろうか
テオ君の元気のよさとエレナちゃんの可愛さでお客さんからの評判はいいらしい
朝ご飯を食べおわる頃には朝のラッシュも終わりお客さんはもうほとんどいなくなっていた
「さて今日は何しよっかな~」
エレナちゃんがいれてくれたお茶をすすりながらつぶやく
「もう体は大丈夫なんですか?」
「うん大丈夫 昨日よく寝たからね」
昨日は襲撃の時魔法を使いすぎた後遺症で寝込んでいたのだ
皆ずいぶん心配してくれたしルーちゃんはほとんどつきっきりで看病してくれた
そだ,何かお礼をしよう
何がいいかな?そういや最近ルーちゃんにお土産買って帰ってなかったな
「ルーちゃんお菓子食べたい?」
「・・・食べたい」
「よしじゃあ作ろう」
私がそう言うと3人が驚いた顔でみてくる
私何か変なこと言った?
「カイリお菓子作れんのか?」
「そだよー,昔から作ってるから得意だよ」
「カイリさんすごいです」
羨望の目でエレナちゃんが見てくる
「大したことないって。作り方さえ知ってれば誰でも作れるよ。やってみる?」
「はいっ」
「・・・(コクコク)」
「テオ君はどうする?」
「俺はいいよ。お菓子作りなんて興味ねぇし」
そう言ったテオ君に耳打ちをする
「ルーちゃんのエプロン姿が合法的に見られるよ」
「ば、ばかっ そんなの興味ねぇよっ」
昨日テオ君をみていてわかったのだが,どうやらテオ君はルーちゃんに惚れちゃってるみたい
こうやってからかうとテオ君はむきになって否定するからおもしろいんだよね
「あっそう?じゃあテオ君は放っておいて三人で作ろうか。おばさーん,台所借り手もいいですか~?」
「好きに使っておくれ」
「ふんっ」
「・・・(ギュッ)」
仲間外れにされたテオ君がどこかに行こうとするとルーちゃんがテオ君の服のすそを掴んだ
「な、なんだよ」
上目遣いで
「・・・一緒に・・・作ろ?」
テオ君の顔が一気に真っ赤に変わり,うなずく
今のは耐えられないね
一発K.O
これで全員参加
「エレナちゃんそこもうちょっと強く」
「わかりました こうですか?」
「そうそうその調子。こらっテオ君!!ルーちゃんばっかり見ないで手を動かす」
「み、見てねぇよバカっ」
「ならちゃんと手を動かしなさい。そこちゃんとしてくれないとおいしくできないんだからね」
こんな感じでお菓子作りは順調?に進んだ
途中でアルが『暇』と言って上に寝に行った
後でお菓子持ってってあげようかな
「すいません」
焼きあがりを待っていると声が聞こえた
この位置からだと姿が見えない
誰かきたみたい
「はいよ 何泊で何人だい?」
「いえ客ではなくてちょっと尋ねたいことがありまして」
「なんだい?」
「こちらにカイリ・クシミヤという女性がいると聞いたのですが」
「カイリちゃんかい?いるけどね カイリちゃんあんたに客だよ」
おばさんが奥にいる私を呼ぶ
誰だろ?この世界に知り合いなんてたいしていないはずだけどな
まさか襲撃がばれた?
なわけないか
それなら有無を言わさず襲ってくるだろうし
そう思って声の聞こえる玄関まで行くとそこには見た顔があった
「10日ぶりですかね」
「・・・クイードさん」
クイードさんに会えたことは嬉しいが一瞬嫌な考えが浮かんだ
それを二度とでてこないように頭の奥に押し込み,ただ会えたことを単純に喜ぶ
「なんでここに?王都に行ったんじゃなかったんですか?」
「そのはずだったんだけですが王都へ向かっている途中で戻って警備につけと言われまして・・・」
「カイリさんその人誰ですか?」
「えっとこの人は私をアルビヤに送ってくれた人で・・・」
「ばっか 分かりきったこと聞くなよ 恋人に決まってんだろ」
「なっ違うわよっ」
「ほほぉ恋人かい?あんたもやるねぇ」
「おばさんまで何言ってんですか やめてくださいよ」
「クイードさんここじゃあれなんで外行きましょ外」
「はぁ 私は構いませんが・・・」
「おい カイリお菓子はどうすんだ?」
甘い匂いが漂ってきたが今はそれどころじゃない
「私はいいから皆で食べてて」
そう言って逃げるように宿をでた
「すいませんね,あの子らが変なこといっちゃって」
屋台のある通りを歩きながら話しかける
「いえいえ。あの子たちはご兄弟ですか?」
「こっち来てから仲良くなったんですよ。皆いい子なんですけど,テオ君だけはちょっと・・・」
「ははは。元気そうでいい子じゃないですか。それに子どもの時はやんちゃなぐらいがいいんですよ。」
「クイードさんも子どもの頃やんちゃだったんですか?」
「それは・・・内緒ですね」
「あー教えてくださいよ,気になりますから」
「私の子どもの頃の話なんか聞いてもおもしろくないですよ
あ,それよりお腹すきませんか?ちょっと買ってきます」
逃げるように屋台に向って行く
そんな恥ずかしがる事じゃないのになー
昼ご飯を食べまた歩き出す
クイードさんがさっきより元気がない
さっき耳についている魔水晶で会話していたから仕事で何かあったのかな?
それだけじゃなくこの前より若干やつれた気がする
「少しやつれました?」
「そう見えますか?恥ずかしい話,少し上と揉めてしまいまして」
「大変なんですね軍隊も」
「どんな仕事にも大変なことはありますから。たいしたことありませんよ」
「皆は元気ですか?ガルマンさんとかマウロさんとか」
「皆元気にやってますよ。すぐに出るので皆は町の外にいますけどね」
「そうですかー。ガルマンさんにちょっかいだそうと思ってたんですけどねー」
「ははは」
後はたわいもない話をした
宿のご飯がおいしすぎるとかテオ君とエレナちゃんの話とか
それをクイードさんは黙って微笑んでいただけだった
『ふあぁ~ おーい、カイリー菓子できたのか?
あれ?いねぇのか?』
もうちょっと寝るつもりだったが昨日カイリにつられてかなり寝たのでたいして眠れなかった
甘い匂いもしてきたので下におりたのだが,いたのはガキ共とばばあで座って菓子を摘みながらなんか喋っている
腹が減っているので食べたいとこだが今俺が食べたら騒ぎになるだろう
カイリに人目のないところまで持ってきてもらうしかないのだがどこ行きやがった?
「カイリさんあんなかっこいい恋人もいるなんてやっぱりすごいですね」
「何のようだったんだろうな?」
「ただ恋人に会いに来ただけじゃないんですか?」
「にしては思いつめたような顔してただろ」
「結婚とかですかね?」
「それは行きすぎだろ。でも,もしそうならどっか行っちゃうってことか?」
「・・・そんなの嫌」
「だよな,俺も嫌だ」
「私もです」
ずいぶん慕われてるな、カイリのやつ。
つーか結婚って何の話だ?こいつら本当にカイリの話してんのか?
「あんたたち、もしそうなったとしても駄々こねてカイリを困らせるんじゃないよ
あんな玉の輿今を逃すとそう簡単に捕まるもんじゃないんだからね
あの娘の幸せも考えてやらないとだめよ」
「・・・玉の輿?」
「そうだよ。あの制服は国軍の,しかもかなり階級が上のだからね」
国軍?まさか・・・
『くそっ あのバカっ』
カイリとの契約を深く辿る
これで場所は分かった
後は・・・間に合うかどうかっ!!
俺は全力でカイリを目指し飛んだ
「カイリさん一つお尋ねしたいことがあるのですが・・・」
クイードさんがすごく辛そうな顔をして久しぶりに口を開いた
「なんですか?」
「・・・我々と会った日、湖が消滅した話をしましたよね?」
ドクン!!
私の心臓の鼓動が一気に早くなる
「違うのなら違うと言ってください」
私は一瞬でクイードさんが言いたい事を理解した
さっき頭の奥に押し込んだ考えが大きくなって頭を支配する
嫌だ
この続きを言ってほしくない
もしかしたらクイードさんが言いたいことは私が思っていることとは違うかもしれない
私はそのありもしない希望にすがりつき祈る
無駄だと知っていながら祈る
しかし当然のごとくその希望は打ち砕かれた
「犯人は・・・あなたですか?」
「・・・」
言葉が出ない
どうすればいいのだろう?
何も考えれない
ずっとこうなってほしくなくて考えないようにしていた
その結果がこれだ
「クイードやっと決断したのか」
マウロさんの声が聞こえ顔をあげる
いつの間にかマウロさんがクイードさんの隣にきていた
それだけではなく私を囲むように隊の人が位置どり腰の剣に手をかけている
「あぁ」
クイードさんが剣を抜き私に向け言い放つ
「クシミヤ・カイリ改めアルバード・ゲイン
あなたを・・・逮捕する」