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28話 明かされた真実


 前世の電車とは違ってこっちの列車はめちゃくちゃ揺れるしお尻も痛い。

 お城育ちのルチアーノお坊っちゃんには耐え難いものだろう。

 ナタリーの前にも関わらずさっきから不機嫌丸出しで、私が勧めたお菓子にも手をつけない。


「アンナ先生、ところでこの列車の行先は……?」


 一方サクサクとクッキーを齧るヴァンクール。

 彼がそれを尋ねてきた瞬間、ナタリーは「それすら伝えずにお連れしたんですか!?」と驚きでひっくり返りそうになっていた。


「列車の行先は西の街リヨンです」

「そこから一時間ぐらい歩いた先に、ナタリーの故郷の村があるんですって」

「なるほど。この旅はコロラトゥーラ様の帰省のお供でしたか」


 ルチアーノが『本当の本当になんのつもりだ』の目で私を見てくる。

 相当頭にキテそうだけど途中下車もせずについてきてくれるのは、これまで手塩にかけて特別レッスンをしてきてあげたおかげだろうか。


「先生が私の帰省について行くと仰られた時は驚きましたが……父と母に恩師を紹介できるのはとてもうれしいです。私、先生のおかげでとても楽しい学園生活を送らせてもらっているので」


 地獄の空気が漂う車内をどうにかすべきとでも思ったのか、ナタリーがかわいいことを言ってくれた。


「そんな、私のおかげだなんて。ナタリーが素敵な子だから、そうあるべくしてなっているのよ」


 ほんと、ナタリーってとってもいい子よね。

 そうルチアーノに笑いかけたら、プイと顔を逸らされて、そのまま窓の外を眺め始めて戻ってこなくなってしまった。


「それに殿下まで来てくださるなんて……村中が大騒ぎになりますね。本当に何も無い田舎ですが……大丈夫なんでしょうか……?」

「いいも悪いも、僕はそこの女に騙されただけだ」

「ええ、何も騙してなんかないじゃないですか」


 最初から一切嘘は言ってなかったはずだ。私の真の目的は伏せさせてもらっているだけで。

 そんな私を窓の反射越しに睨んでくるルチアーノ。

 さすがにちょっと気まずくて、今度は私が視線を逸らした。


 

◇



「駅からは馬車じゃなくて歩きだと……!?」

「すみません、ここらへんで馬車に乗る文化はなくて……」

「いいじゃないですか殿下、歩きの方が視界が広いですよ」


 大きな荷物を持った他の人間に比べてルチアーノは手ぶらのくせに、一時間の道中に文句を垂れまくった。

 最終的にはその文句が、地方ももっと交通インフラを整えるべきだという、今後の国策に繋がりそうな結論に繋がっていたのでよかったとしよう。思わぬところで課外学習らしさが出ている。


 山側へ向かって歩き続けると、徐々に視界には広大な田畑が広がるようになった。

 そこで畑作業をする人々は皆、ナタリーの姿を見ると笑顔でナタリーに声をかけ、「おかえり」「元気だったかい?」と口々に彼女の労をねぎらう。


 ルチアーノはそんな彼女の様子を黙って見ていた。村のみんなから愛される彼女の魅力を、あらためて感じているのかもしれない。

 

 ただ、ナタリーのかわいらしいお家を見て「犬小屋か?」と平気で失礼なことを言うのはゲームのシナリオと同じだった。


(よしよし、ルチアーノルートに合流できてきたってことじゃない?)


 ナタリーの両親は予想だにしなかった客人の訪問に腰を抜かしていたけれど、そこはさすがナタリーの生みの親。

 大きな懐とおおらかさですぐに私達を迎え入れ、豪華な手料理を振舞ってくれた。

 

「……美味い」


 それまで「どうして僕がこんなところに」と文句ばかりだったルチアーノだけど、たくさんの野菜の美味しさが溶け込んだスープをひと口飲んだところで、ほっと息をつくようにそう呟いた。


 ルチアーノには、良いものは良いと素直に認められる良さがある。

 騙すように連れてきたのは悪かったと思うけど、きっとルチアーノなら、この帰省の間にナタリーの良さに気がつくだろう。

 そのときになれば、彼は私に「連れてきてくれてありがとう」と思うはず。


「どうです殿下、田舎暮らしも素敵じゃありませんか?」


 調子に乗ってそんなことを言えば、またじっとりとした目で睨まれた。


 


 ——そしてその食事の後、異変は起きた。

 ナタリーがなにやら少し恥ずかしそうに、


「あの、少し約束があって……」


 と家を出ていったのだ。

 攻略対象であり王太子であるルチアーノが家にいるのに。

 そんな高貴な客人を置いて、一体どこへ……!?


 申し訳ない気持ちもありつつ、私はそんな彼女の後をつけた。

 ただの勘だけど……この先に、私が知るべき何かがあるような気がしていた。


「コロラトゥーラ嬢をつけるのか? 彼女に何が?」

「いや……殿下はついてこないでください」


 しかしこっそり出てきたつもりなのに、なぜかルチアーノがついてきてしまった。

 置いていこうにも不服そうに腕を掴んでくる。


「……絶対バレないように、静かにしててくださいね」


 結局私が折れて、ルチアーノと二人でナタリーを尾行することに。

 ナタリーはまたいろんな人に声をかけられつつも、着実に山間を登っていった。

 真夏の日差しの中の登山はまぁまぁ堪える。それでもここで育ったナタリーはスイスイと、ほとんど駆け足のスピードで進んでいく。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 息を切らしながらたどり着いたそこには、小さな時計台があった。


(こんなところに……)


 もう使われてはいないのだろう。そこは深い木々に覆われており、時計も正確な時間を指してはいない。

 その時計台に向かうナタリーを、私は草木の陰からじっと見つめた。


「……男だな」


 私の隣から様子を覗き込むルチアーノがぼそりと言う。

 その言葉通り、時計台の階段には一人の青年が座っていて、ナタリーに気がつくと嬉しそうに駆け寄った。

 笑顔で会話を交わす二人。会話の内容までは聴こえないけど、なにやら親しい間柄なのは伝わってくる。


 な……ナタリーどういうこと……?

 その人は超絶イケメン権力持ち、落とせば玉の輿ハッピーエンド間違い無しのルチアーノを置き去りにしてまで会う相手なの……?


 暑さのせいではない汗がだらだら流れる。

 ——嫌な予感がする。

 だってあの青年……ルチアーノに負けず劣らず、作画がいい。

 

 なぜ学園から遠く離れたこんな田舎にあの作画のイケメンがいるのかと頭を抱える私の前で、ついに二人は手を繋ぎ……時計台の中へと消えていった。


(……ま、まさか……!)


 そこで私はやっと、一つの可能性に思い至った。

 自分の脳みそから血の気が引いていくのを感じる。


 あれはもしや、ゲームスタート時点——つまり入学式の日から『手紙を書く』の選択肢を連打しないと出会えない……



 隠しキャラの幼馴染……!?



「そ、そんな……」

 

 そういう隠しルートがあるというのは聞いたことがあったけど、実際に自分がそのルートを進んだことはなかったから今まで考えもしなかった。

 

 けど今にして思えば……ナタリーは最初から言っていたじゃないか。


『あ……昨日は歌ってません。故郷の……友(・)人(・)に(・)手(・)紙(・)を(・)書(・)い(・)て(・)い(・)た(・)ら、いつの間にか眠ってしまっていて』

 

『女神の歌声』イベントが起きなかったのは私のせいでもなんでもない。

 はじめからナタリーは、あの幼馴染の彼ルートまっしぐらだったのだ。


 ここへ来てすべてが覆されるあまりの衝撃に、私は膝から崩れ落ちる他なかった。


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