第92話 そして誰もいなくなった
「とりあえず僕達が生き延びるためにはあの……『駄目人間』に頼るしかない」
誠は会議室を出るとそのまま隊長室を目指した。
圧倒的軍事力には策を弄するよりほかにない。
策と言えば策士を自称する嵯峨が最適だった。
「隊長いますかー?」
もはや完全に上官への敬意の対象から外れている自称『プライドゼロの男』である嵯峨の居るはずの隊長室に誠はノックもせずに足を踏み入れた。
しかし、そこに人影はなかった。
「ここに居ない。喫煙所かな?」
そう思った誠の目に窓の外を巨大な基礎建築用のボーリングマシンを積んだトレーラーが通る様が目に入った。
「例の鷹司部長が言ってた『部活棟』の建設ってもう始まるんだ……まあ、あの莫大な『福利厚生予備費』の利子を早めに使っちゃいたいんだろうな」
誠はそんな独り言を言いながら隊長室を出て喫煙所に向った。
そこにも嵯峨の姿は無かった。
「なんだよ、隊長の行動パターンからするとここに居るのが普通……いや、家に帰ってお蔦さんと……ああ、さすがにそこまで駄目じゃないか……」
誠は踵を返すと雰囲気が悪くて居づらいのは分かっているが他に居行き先もない上に彼女達にも命の危機が近づいているのは事実なので機動部隊の詰め所に向った。
「遅れましたー!」
誠は間抜けな挨拶をして部屋の引き戸を開けるが、その中にはランが一人で詰将棋をしている姿があるだけだった。
「あのー、クバルカ中佐……他の人は?」
誠は桂馬をてに考え込んでいるランに向けてそう尋ねた。
「ああ、渡辺は鷹司部長が用意した防弾装備のVIP用リムジンの受け取りに千要に出かけた。他の面子は……あれだ……」
そう言ってランは窓の外を指さす。そこにはパワーショベルを積んだトレーラーが窓の外にある駐車場を通り抜けている光景が映っていた。
「『部活棟』の建築……始まるんですね。でも昨日の今日でしょ?いくらなんでも早すぎやしません?」
誠の問いにランは大きくため息をつく。
「あのなあ、国を超えてのしかも出先機関の部長級の内示や業務の引き継ぎってのは月単位で行われるもんだ。先々月には前任の高梨部長は鷹司に例の『福利厚生予備費』が増えすぎて困ってることを連絡済みだったということだ。それで、金に厳しい大蔵官僚らしく鷹司は事前に工事の手配なんかの手を打ってたんだろーな。それじゃなきゃこの数年の開発ラッシュの東和で建設会社と話をつけるなんて無理な話だ。そんぐらい勉強しろ」
ランは相変わらず誠の不勉強をなじるようにそう言うとそのまま桂馬を静かに指した。




