第88話 『女独眼竜』その決意と実力
「その祥子さんなんだけど……今、この豊川に潜伏してるのよ……誠君を拉致して自分好みの男にするために」
鷹司の何気ない一言が夢中でどんぶりを食べることですべてを無かったことにしたかった誠を絶望のどん底に突き落とした。
「甲武海軍ってそんなに自由なんですか?勝手に持ち場を離れたら……普通懲罰ものでしょ?」
静かに箸をおきながら誠はそう言うのがやっとだった。
「ああ、彼女は甲武海軍は除隊しているわよ。私が面接で落としたと告げたら即の決断だったそうだわ。そして同時に伊達家当主の『奥州探題』と『陸奥守』と全所領を弟に譲る代わりに伊達家の貯金を全部引き出して姿をくらませた」
『何がしたいんだ……って狙いは僕か……こりゃあ下手をすると地球の僕を狙っている法術研究関係者なんかよりよっぽど手ごわい敵が出来たぞ』
鷹司の言葉に誠は祥子を『敵』として認識していた。自分が祥子の手に渡れば間違いなくかなめが望むようなドMに洗脳され、同じくかなめが望むようなドSにもなる。それだけは避けたかった。
「でも、本来軍を除隊したら一番高い官位で特権満載の『蔵人別当』は返上しなかったの。あの官位は色々使えるのよ……『殿上会』にも『検非違使別当』や『弾正尹』と並んでどんな武器を持ち込んでも許されるし、国外においても甲武と国交のある国なら武装して歩いているところを警察に捕まっても官位を証明できればその場で解放。つまり、祥子さんはフル武装した状態でこの豊川で誠君を独占するためだけに隠密に行動している……」
「なんて化け物女を呼び起こしちゃったんですか!ぼくは西園寺さんやかえでさんの相手だけで手いっぱいなんですよ!しかも常にフル武装!それってほとんどテロリストじゃないですか!確かに元地球人だから法術は使えないから西園寺さんはともかくかえでさんならなんとかできるでしょうけど!」
その誠の叫びに鷹司は静かに首を左右に振った。
「甲武の貴族が全員元地球人で法術が使えないなんて誰が決めたの?そもそもかえでちゃん。お母さんは遼帝国皇弟家の出の遼州人で法術師。そしてその娘のかえで君も法術師。かなめちゃんは……今のところ法術は使えないわよね。でも祥子さんの母親、義子さんはあの遼帝国の暗君霊帝の長女……つまり遼州人。そして祥子さんは法術が使える……甲武海軍の上層部の秘密事項としてかえで君の法術は知られてたけど、それと同時に祥子さんの法術師としての力も知られてた。まさに甲武海軍の二枚看板の法術師。それが祥子さん。かえで君が言うにはいいライバル……みたいよ。実力的には互角だって。まあ、サイボーグで反応速度が圧倒的な分だけ祥子さんには勝てないだろうとあの強気なかえで君が言うくらいだから……」
鷹司の言葉は後半誠の耳には届かなくなった。意識は遠くなり体の力が抜けていくのを感じていた。




