第84話 親子丼と異様な『婚姻届』
「じゃあ、風」
部屋に入ると鷹司は誠と風の正面に座った。風は思わず誠の手を握ってくる。誠は無邪気な子供のする事と笑っていた。そして鷹司の言葉に合わせて風は手にしていた弁当をテーブルに並べた。
丼物の店としてはとんでもない値段だと思っている誠がかつて拉致された時に頼んだ店の陶器製の入れ物が誠達の前に並んだ。
誠が蓋を開けるとそれは親子丼ぶりだった。
「鷹司部長……ありがとうございます」
誠は静かに礼を言うと割り箸を手に取った。
「いいのよ。それより……この書類を見てもらえないかしら?」
鷹司は手にした赤い罫線の惹かれた見慣れない長い紙を取り出した。
その紙の見出しを見て誠は心臓が止まるところだった。
『婚姻届(遼帝国帝籍)』
確かにその書類の見出しに誠の顔は青ざめていく。
「あのーこれって『婚姻届』ですよね?誰と誰が結婚するんです?そしてなんで僕がこれを見ないといけないんです?」
誠は頭の中を駆け巡る疑問符に戸惑いながらようやくそんな言葉を口にすることができた。
「それは決まってるじゃないの。誠君と私達の結婚届。誠君は神前家……しかも遼帝国の帝籍のある家の生まれだもの。だからそれ用のもの。あとは誠君の署名と判子……、ああ、『神前』の三文判と朱肉はここにあるから。これで誠君に署名と判子を貰えばあとは市役所に提出すればいい段階になってるわ」
鷹司はいかにも事務的でありながらも行為に満ちた雰囲気でそう言い切った。
誠はその書類を手に取った。
本籍地から始まる欄はすでに記入が終わっていた。そして、その『婚姻届』が誠の思い描いていたものとは明らかに違うことにすぐに気が付いた。
まず、『夫・妻』と言う一名だけを書く欄がある。それはいい。
そしてその下に同じく『夫・妻』と言う欄が延々と並んでいて、そこにはすでに直筆と思われる人物の名前が延々と書き連ねられ、判子も押されていた。
そしてその欄の一番上にあるのが『鷹司風』の名前だった。
「あのー、僕いつこの子と結婚するって言いました?」
誠は隣で笑顔で誠の手を握りしめて来る風を見ながらそう言った。
「ええ、誠君は言ってないわね。でも誠君のお母さんも、風の祖母である康子様もご了承済みよ。良いお母さんと切れるおばあ様。酔い御縁だと思いません?」
鷹司は笑みを浮かべてそう言った。そしてその『鷹司風』の下にはちゃっかりと『鷹司華子』と言う名前が記されていることにも気が付いた。
『なるほど……だから今日の弁当は『親子丼』なんだ……』
誠はそんなところに洒落を利かせなくてもいいんじゃないかと思いながらさらにそのどう見ても異様な『婚姻届』に目を通した。




