第75話 鯛雑炊と出勤
その夜はランとの豪華な鍋を楽しんだ後、ランの隣の豪勢な和室に案内されて誠は一夜を過ごした。
朝は、昨日の鯛ちりを使った雑炊が供された。
「しっかり食っとけよ。しかし、この一日の時間がこの雑炊の味を変える……不思議なもんじゃねーか」
満足げな山路老人を見ながらランは雑炊を満足げに掻きこんだ。
食事を終えると誠達を待っていたかのようにやくざ者たちは整列して部屋の出口まで並ぶ。
「山路さん、行って来るよ」
ランはそう言うと頭を下げるやくざ者たちの間を威風堂々と歩いていく。誠はそのそれが当然というようなランの態度と、両脇に並ぶ男達の隠しようもない迫力に気おされながらもランに置いて行かれまいとその後を追った。
ビルの前にはすでにランの黒い高級乗用車は停めてあった。
運転席のドアの所にはラメの入ったランの運転席にも乗れるような小柄な一見まじめ風な顔つきだが、額に明らかに分かる反りこみと派手なスカジャンで堅気でないことがわかる青年が立っている。
「じゃあ、行って来るわ」
『先生!行ってらっしゃいませ!』
ビルの前に居並ぶやくざ者は誠達が車に乗ると同時に声を合わせてそう言った。
「クバルカ中佐……こんなのが毎日続いてるんですか?よく神経が持ちますね……僕は昨日は布団が良かったから眠れましたけど子の環境じゃ数か月で神経がおかしくなりますよ」
車が進みビルが見えなくなった辺りで後部座席の誠はそう弱音を吐いた。
「オメーなあ。軍人も、警察もどっちも舐められたら終いの仕事だぞ?昨日も言った通りオメーの才能は貴重だ。でも、その気の弱さ……なんとかならねえのか?まーなんともならねーんだろーな。でも西園寺に年中銃を突きつけられても、島田の馬鹿に何度拳を向けられても、日野に変なことされても最近はあまり動じなくなってきてるじゃねーか。人間何にだって慣れるもんなんだ。ただ、初めて出会った現象に対してはその人間の本質が出る。昨日のオメーの顔。見てて面白かったぜ」
まるで教習所の教官のような見事な運転を見せながらランはバックミラー越しに笑いながら誠を見つめた。
「そんなに怯える僕を見るのが楽しいんですか?悪趣味ですよ、クバルカ中佐」
誠も確かに昨日は一日中周りの男達の迫力に負けて怯えて過ごしたことを思い出し苦笑いを浮かべる。
「なあに、その初めての出来事に出会って本性を晒すというのも繰り返せば次第に減っていくもんなんだ。そう言う機会をこれからも多く用意する……それがアタシの仕事……まあ、うちは『特殊な部隊』で社会不適合者の集団だからオメーの弱い神経をすり減らすよーな出来事には事欠かねーのが良いところとは言えるがな」
ランは上機嫌で運転しながら隊へと向かう県道に車を乗り入れた。




