第74話 いくら望んでも手に入らない力
「まー、そんな話はどーでもいーんだ。シャム……ああ、ナンバルゲニア・シャムラードなんてなげー名前を呼ぶのはめんどーだからアタシはアイツをそー呼んでんだ。アイツはもー二度と戦いたくねーそーだ。ただ、戦う覚悟がある人間にはその素質を育てるのは別に気にしちゃいねーらしーや。遼帝国の皇帝はそこに目を付けて法術が明らかになる前から東和共和国の警察当局の法術適性者にシャムによる法術戦闘訓練をさせていた。おかげであれだけ早く東都警察に法術対策部隊が設立出来たんだ……『同盟厚生局違法法術研究事件』の時、出来損ないの不死人相手に一方的にボコられたものの二次被害だけは防いだあの連中だ」
ランは静かににんじんを口に運びながらそう言った。
「でも、あの人達あんまり役に立って無かったじゃないですか。あの人達に出来る事って空を飛ぶことと僕からしたらとてもそんな名前に値しないような干渉空間を展開できるくらいのものじゃないですか?それでも法術対策部隊なのか僕はあれを見て思っちゃいましたよ」
誠はこんにゃくを食べながらランに向ってそう言う。
「そりゃー、オメーの才能はぴか一なんだよ。それに、オメーも日野もアイツ等の敵じゃねーのは確かだが飛べねーよな?渡辺……アイツも日野のいたずらで法術師になったがアイツも一人で東都警察の法術対策部隊位全滅させられる程度の強さだが……飛べない。だから、法術対策部隊で表立って動いてる連中はただの飛べて、多少法術らしいものが使える程度の普通の人間……まー飛べる時点で地球人には理解不能な存在なんだろーがな」
そう言うランの言葉には力がこもっていた。
「神前、オメーの才能は本当に貴重なんだ。オメーをうちに引っ張り込んだ時にあの『駄目人間』がどんな手段を使っても構わねーと言ったくらい貴重な存在なんだ。その持って生まれた力……しっかり噛みしめて使え。アタシはそれをより良い方向に導き、よりよい使い方を考える。それがオメーの責任でアタシの仕事だ」
ニヤリと笑ったランは静かに杯を飲み干すと再び鯛の身に箸を伸ばした。
「僕は選ばれた存在……でも、かえでさんやクバルカ中佐には子ども扱いですよ」
苦々し気に笑いながら誠は春菊を口に運んだ。
「そりゃあ、持って生まれた力の限界って奴だ。東都警察の法術対策部隊の連中もオメーを見たら、今、オメーが日野やアタシに感じている気持ちと同じ気持ちになる。そのくらいのことは考えろ」
ランの言葉に誠はハッとした。誠は絶対にかえでやランの領域には届かない。そして、多くの法術師は望んでも誠の領域に手が届くということを夢見る事すらできない。
そんな残酷な現実を突きつけられながらランの奇妙な下宿先での豪華な食事会の夜は過ぎて行った。




