第73話 宇宙を滅ぼした幼女
「その人……本当に僕達遼州人をこの星に連れてきた本人なんですか?クバルカ中佐の事だからまた騙されてるんじゃないですか?」
誠は思わずそう言っていた。ただし、騙される理由がランが馬鹿だからと言うことは省くだけの余裕はまだ誠にはあった。
「アイツに嘘をつくようなおつむはねえ。それにそんな噓をついて誰が得するよ。後々、隊長がアイツの生体検査とかしたらしいんだが、1億年以上生きてるのは間違いねーらしいや。この星に遼州人が突如現れて焼き畑農業を始めたのが1億年前。時間的にはぴったり合うな。まあ、アタシも同じ検査を受けたことがあるが4億歳だと……アタシもそんな年月数えたことがねーから知らなかったけど驚いたな」
平然とそう言うとランは今度は鍋の奥にお玉をツッコんで鯛の身から作ったというつみれを取り出した。
「1億とか4億とかだんだん訳が分からなくなってきたんですけど……」
ランの話のスケールの大きさに誠は付いていくことができなかった。
「なあに、この宇宙は130億年経ってる訳だ。それにこの宇宙の外……時間や空間の概念の無い世界が存在する……オメー理系だろ?なんで文学部のしかも夜学出身のアタシでも知ってる話の説明をアタシたしなきゃなんねーんだ?」
不服そうにつみれを頬張りながらランはそう言って誠をにらみつける。
「いわゆる『インフレーション理論』ですね。一つの宇宙の外には時間や空間の概念の無い世界があり、その中から時間と空間の概念のある世界が次から次へと生まれ続けている……そこには無限の可能性が存在し……」
「知ってんなら上司に難しい話をさせるな。この宇宙はそんな宇宙の一つでしかねーんだ。地球が数多くある知的生命体が生まれるに適した環境の一つにすぎねーよーに、この宇宙もまたそんな数多くある可能性のある宇宙の一つにすぎねー。そしてアタシの友達……ナンバルゲニア・シャムラードも、アタシもそんな宇宙を滅ぼしてこの星に来た。ただそれだけの話だ」
ランはさも当たり前のようにそう言うと今度は鍋をのぞきこんでお玉でこんにゃくを探し始めた。
「宇宙を……滅ぼす?」
この一言に誠は言葉を失っていった。
文明が滅ぶ。それは理解できる。歴史の知識のない誠でも地球の歴史で文明が滅んだことはよくある話だと聞いていた。
国が亡ぶ。これも遼州人が地球人に発見されてからも地球では何度とない核戦争による民族浄化によって数十の国が滅んでいた。
星が滅ぶ。地球人は遼州人の奴隷化に失敗するとこれまで三つの知的生命体と遭遇するとその得意とする民族浄化でその千十人類を滅ぼして地球で移民たちを募って惑星開発を開始した。
しかし、ランは宇宙が滅ぶということを口にした。そしてラン自身がそんな宇宙を滅ぼした一人であると言った。誠はその言葉の意味が理解できずにただ固まっていた。




