第72話 友達になりたい
「でも、先生。先生はこの国や遼州圏の平和のために戦ってるんじゃないですか?テメエの住む町が良い町だと言われたいために身体を張ってる俺達とは……」
山路老人の言葉にランはニヤリと笑うと手酌で酒を注いだ。
「おんなじことさ……それより軍人が辛いのは友達ができねーことだ。西園寺……アイツはそれなりに地獄は見てきたはずだがそれでもその時に死んだ間抜けを『戦友』とか呼ぶんだ。なっちゃいねーな。甘えてるよ、その言葉は。軍人には友達なんかその戦場には居ねー。いや、居ちゃいけねーんだ。そこには味方と敵。上官と部下。それしかねーんだよ。それ以外の感情を入れてるとすぐに死ぬことになる。その点やくざはそんな死もまたあっていい世界に生きられるんだ。軍人なんかよりよっぽどまともな世界に生きてるって証だ」
鯛の身に手を伸ばしながらランはそうつぶやいた。
「でも、クバルカ中佐には友達がいるって……遼南内戦で知り合った唯一無二の友達がいるって聞いてますよ。そう言えば来ないですね、その人からの手紙。なんでもどうやってついたか分からないくらい下手な字で書いたはがきが届くって西園寺さんが言ってましたから」
誠も白菜を口に運びながらそう言った。
「アイツか?アイツの事だからどーせ今手に入れたばかりのゲームに夢中で忘れてるんだろ?それにアイツは味方として戦った『戦友』じゃねー。アイツはアタシを唯一倒した『敵』だ」
鯛の身を鍋に付けながらのランの言葉は鋭く冷たかった。
「だが、アイツは普通の軍人じゃねー。そもそも軍人と言う枠に収まるような小さな器じゃねーんだ。アイツがアタシと戦った理由を知ればアイツがそもそも軍人と言う枠とは根本的に違うことが良く分かる」
ランはそう言うと静かに鯛の身を口に運んだ。
「戦った理由?敵だからじゃないんですか?」
訳も分からずそう言った誠の言葉を聞いて隣で酒を飲んでいた山路老人が思わず吹き出した。
「ちげーんだ。アイツがアタシと戦った理由。そもそも隊長の部下になってアタシと戦いたいと思った理由はな、『友達になりたい』からなんだそーだ」
ランの言葉に誠は言葉を失った。
「戦う理由が『友達になりたい?』。それどこの魔法少女アニメですか?」
誠に言える言葉はそれだけだった。
「アイツの思考回路を理解しようなんてのは無理な話だ。ただ、アイツとアタシ……あまりに過ぎているのは事実だ。アイツは1億年前、他の宇宙からこの星に遼州人を連れてきた『神』だ。アタシはそれとは別の宇宙からこの星にやってきて……2億年ほど前に寝てたらどうやら火山の噴火とかで埋まってたらしくて40年ほど前に石炭の鉱山で掘り起こされて目覚めた。同じこの宇宙にたった一人の存在。だから友達になろう……アタシがアイツの足りない頭を補って考えてやったアイツなりのアタシと友達になりたい理由はそんなところなんじゃねーかな」
ランは静かにそう言うと再び鯛の切り身に手を伸ばした。誠はランの言葉に出て来る天文学的レベルの時間経過に唖然とするばかりで箸を止めたままじっとしていた。




