第68話 結果現状が良いならそれでいいと幼女は言った
「でもそんな大金が動いてるんでしょ?まあ、やくざは警察官のクバルカ中佐がここで暮らしているから近づいてこないのは分かるんですけど、豊川署……何か言ってきません?千要警察の丸暴の人達とかもなにをしているんですか?」
ランの異常なまでのヤクザへの肩入れに呆れ果てて誠はそう言った。
「豊川署?なんで連中がうちに文句を言って来るんだ?連中の刑事課……アイツ等がしている仕事は島田の万引きとバイク泥と自動車泥の後始末だけで他に何の犯罪も起きていねーんだ。それもこれも山路さんのおかげだ。賭場が気に食わないから丸暴が動く?ここの賭場は信用できる人間しか入れねーようにしている。当然、この宇宙で一番信用できねー人間である『駄目人間』は近づくのも禁止だ。そいつ等は金の使いどころに困ってうちに来るんだ。だったら博打の一番の問題であるそれから抜け出せなくなって犯罪に走るなんて言うことは起こらねー。それに近隣の指定暴力団の賭場が儲からなくなって力を失うのは連中にとっても大助かりってわけだ……まあ、千要県警の本部長はアタシの顔を見るとあからさまに嫌な顔をして来るってことは全部連中もお見通しなんだろうがな」
平然とそう言うランに食前酒とばかりに朱塗りの杯がやくざ者の手から渡された。
「つまり……県警もクバルカ中佐がここでサイコロを振って違法賭博を仕切ってることは全部知ってて知らないふりをしているってことですよね?」
山路老人と誠も杯を受け取りながら誠はそう言った。
「世の中なんざそんなもんだ。現実を見ろっていつも言ってるだろーが。『目で見た物だけがリアル』なんだ。アタシが山路さんにお世話になる。山路さんは人として正しいことをしている。だからこの街は平和。近隣の人殺しさえなんとも思わねーようなやくざの風上にも置けねーような連中は困る。そうすると県警は楽が出来る。良ーことずくめじゃねーか。このことで誰が困るんだ?困る奴が居るなら言ってみろ、神前」
ランはそう言うと悠然と杯の酒を飲み干した。
「ほー……意外と甘口だな。飯を食う前にこんな酒ってのも悪くねーや」
そう言ってランはちっちゃなランをまるで孫娘を見守るような目で見ていた山路老人に目をやった。
「さすがは先生。お目が高い。これはあくまでうちの組を褒めてもらった先生への気遣いの酒と言う奴ですよ。鯛ちりにはそれに合わせた酒を用意してあります……おい!オメエ等も手が空いてるものは厨房から刺身を持ってきて隙に食え!ただ飲み過ぎるんじゃねーぞ!今日は先生が見どころがあると言った若いのの目がオメエ等を見てるんだ!それを心得て先生に感謝しながらうまいものを食え!」
老人のどすの利いた声が場に響いた。その声はどこかしら誇らしげでランの笑顔を誘うものだった。




