第63話 仁義を切る『遼の女呂布奉先』
「オメー仁義の切り方……なんて知らねえよな?西園寺の奴をここに連れてきたときはそれはも見事な仁義を切ったもんだぜ。アイツは貴族とは言え甲武の生まれ、甲武じゃあ闇屋が今でもデカい顔をして歩いている。闇屋の間じゃあ仁義を切ってから商売をするのがルールだ。庶民派を売りにしている西園寺家の当主なら仁義の一つも切れて当然か」
ランは誠を見上げてそう言うとRPGの直撃すら防ぐような厚くて重そうなドアに手をかけようとしたが、やくざ者の一人がそれに気が付いて代わりにドアを開けた。
「クバルカ中佐……『仁義を切る』ってなんです?」
誠はランの言葉の一部が理解できずにそうオウム返しに聞き返した。ランはドアを入ると大きくため息をついてあきれたような顔で誠を見つめた。
「まったく最近の東和の若いのはそんなもんも知らねえのか?じゃあ、見せてやる……ってその前に……」
あきれ顔のランに向って上がり框に向って歩いてくるロマンスグレーのリーゼントの似合う恰幅の良い和服の老人が近づいてきた。
「ああ、先生。お早いお帰りで。今日は鯛ちりをやろうと思ってるんですけど……おい!足を拭う物ぐらい用意してねえのか!気が利かねえ馬鹿はうちにはいらねえんだ!」
老人はそう叫んでランに続いては言ってきたやくざ者を怒鳴りつけた。飛び跳ねるようにしてその一人がバケツを持ってランと誠に駆け寄る。
「ああ、親分。そんなことより、アタシが前から言ってた見どころのある若造を連れてきた。ただ……こいつが『仁義の切り方』を知らねーとか抜かしてるんだ。ここはアタシが見本を見せるからちゃんとそれを受けてくんねーかな」
ランはそう言うと袴をひらりと持ち上げて右手を差し出して頭を下げ、前傾して親分と呼ばれた老人をにらみつけた。
「お控え成すって!アタシは生国は遼南共和国、慶州、八区鉱山にござりまする。あの『遼の董卓』と呼ばれたガルシア・ゴンザレスに目をかけられまして、遼帝国では『飛将軍』と呼ばれ、遼南共和国にありましては『最強将軍』の職にございました!姓はクバルカ!名はランと申す国を追われた国無しの身……親分さんの所に御厄介になっているこの御恩!決して忘れることはございません!今は司法局実働部隊と言うちんけな警察部隊の副隊長を務めさせていただいております!どうぞお見知りおきを!」
鋭く甲高いランの叫びが玄関に木霊する様に親分と呼ばれた老人は満足げに腕を組んで聞き入っていた。
「さすがは先生の仁義はそこらの流しのテキヤとはわけが違う。ついでに『遼の呂布奉先』と呼ばれていたとまで付け加えたらこの俺だって裸足で逃げ出すところだ。見事な仁義だ。若いの!これがお前さんの仕える真の『女の中の女』であるクバルカ・ラン先生だ。まあ、東和で渡世に身を置く人間には『汗血馬の騎手』の方が通りが良いがな。まあ、足を洗ったらそのまま奥へ」
老人は満面の笑みを浮かべるとそう言って奥へと消えていった。ランは雪駄を脱ぐと度についていた砂利の粉をやくざ者の運んで来たバケツの中の雑巾で拭って奥へと上がり込む。誠もまたつられてその後に続いていった。




