第62話 たどり着いたのはどう見ても組事務所
その後も車内ではランは延々と幕末のヤクザ上がりの十手持ちたち。特にお気に入りである『吉良の仁吉』の話を熱く語りながら豊川の中心部目指して車を走らせた。
「もうすぐ着くぞ……ああ、ちゃんと待ってらー。あのきっちり整列してアタシを迎える姿。軍だってあんなにきっちりした整列で上官を迎えてくれるようなところはねー。オメー等だってアタシをあんな態度で迎えたことがあるか?」
ランはパッシングをしながら堂々とした4階建てのビルの前に車を停めた。
車の周りには一糸乱れぬ直立不動のどう見ても堅気には見えない角刈りにサングラスと言う男達がランが運転席の扉を開けると同時に静かに頭を下げた。
『先生!おかえりなさいませ!』
男達のどすの効いた叫びに後部座席から降りた誠は肝を冷やした。
「おう、帰ったぞ。車は車庫に入れといてくれ。で?頭は居るんだよな?今日の飯はなんだ?」
羽織袴のランから風呂敷包みを受け取ったやくざ者の中でもひときわ大柄の男にランはそう尋ねた。
「はい、もう季節も変わる時期ですから……鯛ですね。先生の部下の選ぶ魚はどれも一品……うちの組としても他の組のふざけた野郎共にくれてやるにはもったいないのですが……『不殺不傷』が先生の教え。出来るだけ穏便に事を済ませる為には重宝させていただいています」
どう見てもやくざ者だが口調はどこまでも丁寧にランに接して来る態度に誠はただ感服していた。
そして同時に『先生の部下』と言うのが『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』を始めとする隊の所有する艦船を管理する艦船管理部、通称『釣り部』の面々のことであり、『釣りをしている時間は勤務時間に含める』と言う嵯峨が決めた『釣り部』にのみ適用される特殊ルールに惹かれてやって来た釣りで人生をぶち壊した人間達の魚介類にかける情熱がこんなところで生きているのかと感心させられた。
「なーに、いーってことよ。連中も釣ったは良いが食いきれねえ魚の処分には困ってるんだ。おかげで出入りの一つも減るっていうのなら連中の釣りでイカレタ人生にも価値があったということだ」
ランは上機嫌でそう言うと整列したやくざ者たちに囲まれてそのまま事務所の入り口に足を向ける。
誠は思わずビルのあちこちに仕掛けられた監視カメラに目をやった。
『この厳重な監視体制……まるで軍事施設だな……まあ、やくざの世界は抗争事件は当たり前の世界だから当然なのかもしれないけど』
車を降りてからも膝の震えは停まることは無い。
「神前!何してんだ!置いてくぞ!」
ビルの厳重なドアの前に立ったランにそう言われて誠は仕方なくちっちゃな彼女に置いて行かれまいと小走りにやくざ者の間をすり抜けてランの所まで歩いて行った




