第61話 幼女は軍と警察とヤクザは同類だと言った
「それじゃあ、僕はこれで」
アンは本部の入り口まで来るとそのまま隊のゲートに向けて走り出した。
誠はアンに取り残されてランが会わせるという御仁に対する妄想で膝の震えを感じながらそのままランの待つ駐車場に向った。
正月には実家近くの浅間神社の正月の出店の中でかなめが因縁をつけた地回りのヤクザと酒を飲みかわすめぐりあわせになったことがあったが、その時はやくざ程度では眉一つ動かさないかなめ、アメリア、カウラと言う鉄の心臓を持った女性陣がいたが、
確かにあの三人が束になってかかっても瞬殺されること間違いなしの『人類最強』幼女であるランが一緒とは言え、見た目はどう見ても8歳女児のランと一緒にこわもてのやくざの組長と酒を酌み交わすなどと言うことは恐怖以外の何物でもなかった。
「おい、神前!こっちだ!」
黒塗りの高級車の運転席の窓から上半身を出してランが笑顔で手を振ってくる。誠は返す自分の笑顔が引きつっていることに十分気付いていた。
それでもなんとかそれをランに悟られまいとそのままランの車の後部座席に乗り込む。
「なんだ?神前。そんなにやくざが怖いか?」
冷やかすような調子でランはそう言いながら車を発進させた。
「でも、僕達一応は『警察官』ですよね?その『警察官』がやくざから便宜を受けたらヤバいんじゃないですか?」
思わず誠は本音を口にしていた。
「あのなー、神前。江戸時代も末期に入るとそのヤクザが市民の治安を守っていたという歴史的事実があるんだ……オメー日本史先公だとか言ってたな。清水の次郎長、神門の辰五郎……まあ、浪花節を聴かねえオメーには聞いたことがねー名前かも知れねえが、どっちもやくざで博打打ちでしかも十手持ちだった。これは歴史的事実なんだ」
隊のゲートを潜り抜けながらランはそう言った。
「やくざが十手持ち?十手持ちってあれですよね……時代劇の岡っ引きとか言う奴」
誠も母が時代劇好きだったので時々見るテレビで治安を守る警察官的な侍である同心とその手足となる岡っ引きの存在は知っていた。
「そんなのは幕府がまだ安定していた時代の話だ。幕末……幕府の財政は火の車だった。同心なんていつ暇を出されるか分かったもんじゃねーし、給金は遅れるのが当たり前。そんな状態で岡っ引きを雇う?無茶な話だ。それどころか幕府はペリーがやってきて外様の大名の家臣だった浪人たちが『尊王攘夷』を始めてそれを取り締まるので手いっぱいだ。市民を守る余裕なんてまるでねー。そこで、シマを守り、その中での治安を維持していたやくざ者に十手を渡して治安を守らせたんだ。アタシに言わせれば軍も警察もやくざも鉄砲持っててシマを守って命を張る。どこが違うんだ?」
工場の連絡道路を軽やかに高級乗用車を運転しながらのランの言葉はどこまでも軽やかで明るかった。




