第60話 どうやら行先はやくざの組事務所らしい
誠はアンと一緒に男子更衣室を目指した。
女子の制服を着て、しかも日常的に女子高生が着るような私服で暮らしているアンが男子更衣室に出入りするのは誠としては気恥ずかしいような気がするのだが、アンは特に気にしていないようだったし、隊の男子隊員達もすでにそれが日常のものと化していた。
「アン、今日も学校か?」
アンは『特殊な部隊』の配属条件として定時制中学への入学を提示してきていた。そして今日もまた更衣室から女子高生らしいランドセルを取り出して嬉しそうに背負う。
「そうですよ……それと……今日は彼とはホテルに行くことにします。神前先輩が言うように外ですると人から除かれたりして嫌な気分になることがあるので……ああ、日野隊長は先輩とするときは喜びそうですけど」
相変わらずマイペースに着替えを終えたアンは誠に向けてそう言った。
「だから、僕とかえでさんはそんな関係じゃないんだよ……まあ、そんな関係じゃないから今の非常にまずい状況なのは確かなんだけど。それより、アン。アンはクバルカ中佐のお世話になっているところって行ったことがあるのか?」
誠は薄手のブルゾンに袖を通しながら何気なくアンに尋ねてみた。
「はい、元少年兵なんていう堅気とは思えない前職のある人間なら抵抗がないだろうというクバルカ中佐の言葉があって合わせてもらいました。見た目は怖いですけどいい人ですよ。確かにアレは戦場を潜り抜けてきた指揮官の顔です。まあ隊長とは……同じ百戦錬磨とは言え違った雰囲気がありますけど。隊長は不死人ですからやけに若く見えますし、隊長の方が殺気を殺す技術とかはかなり上です。むしろあの人はその殺気で戦場を潜り抜けてきたタイプ……僕も戦場で勇名で知られる指揮官を遠くから見ましたがああいった人は意外と戦場には多くいますよ。隊長みたいに殺気を殺してまるで緊張感を感じさせないのにいざとなると人が変わったように相手を威圧するようなオーラを放つタイプの指揮官は僕も隊長が初めてです」
アンが語るその御仁の要望を想像して誠は思わず冷汗をかいた。
ランは宴会で必ず昭和任侠映画の主題歌を歌うことが決まりのようになっている。つまり、その御仁はどう考えても堅気の人間では無いことだけは確かである。
ランの異常なエンゲル係数を考えると相当な金額を動かせるそう言った人がつく職業と言うと誠には一つしか思いつかない。
『僕は……これからやくざの組事務所に連れていかれるんだ……これならまだ寮の方がマシなような気がするんだけど……』
誠は引きつる頬を先輩の面子にかけてアンから悟られないように男子更衣室をアンと一緒に出た。




