第6話 新部長と『特殊な部隊』の『裏金』
「そう言えばかえでさん達遅いですね……そんなに母乳を出して身体とか大丈夫なんでしょうか?」
誠は一向に帰ってくる気配のないかえでを気遣って残されたカウラとアメリアにそう言ってみたが二人ともただ黙って首を横に振るだけだった。
「あ、あそこにいるのかえでさんじゃないの?リンさんもいるから間違いない……ああ、トイレで搾乳の後に着替えたのね」
そう言って母子の座っていた席を指さしたのはパーラだった。
誠には点にしか見えない母子に二人の人影、紺色のスーツのかえでと黒い執事姿のリンが母子に歩み寄っていく様が誠にも見えた。
「鷹司女史ねえ……確か、高梨さんの後任の人でしょ?かえでちゃんの言うことなら何でも聞くんだ……これは使えるかも」
そう言ってアメリアはいかにも楽しそうに笑う。
「そうか?アメリア。しかし、聞いた話では彼女は甲武国の大蔵官僚だと聞くぞ……日野の言うことは聞くかもしれないが……我々がこうして遊んで暮らせる原資である『福利厚生予備費』の存在を彼女が許すとは到底思えないのだがな」
笑うアメリアに対してカウラの言葉は深刻そのものだった。その言葉を聞くとアメリアの顔からも笑いが消え、一気に落ち込んだような表情に変わる。
『福利厚生予備費』。
それは島田達整備班が『技術鍛錬目的』として趣味で作っているフルスクラッチオールドカーを地球圏の大富豪に密輸することによって発生する多額の余剰金のことだった。
当然、そんなことは本来司法局と言う同盟機構の一部局に所属する一部隊の隊員がやっていい話では無いのだが、そもそも遼州同盟には地球圏の金持ちから金を巻き上げる事には寛容だという風土があるうえに、地球嫌いで知られる副隊長のランがその存在を黙認しているためにこれまで一切問題になってこなかった『特殊な部隊』の裏金と言える存在だった。
実際、この莫大な予備費のおかげで隊の何もなかった空き地にグラウンドができ、夜間照明施設が付き、夏と冬の野球部の合宿やその他アメリアが命を賭けて作っているエロゲの制作資金もそこから出ていた。
「大蔵官僚……当然お金の管理には厳しいですよね?高梨部長は『福利厚生予備費』の存在は知ってはいましたが、クバルカ中佐の顔を立てて見て見ぬふりをしていてくれましたけど……鷹司新部長は……どうなんでしょうか?」
誠はかえで達と談笑しているらしい鷹司華子とその娘というかかえでのクローンを見ながらそう言った。
「まあ、金額が金額だし……高梨さんみたいに見ないふりとは行かないでしょうね……」
アメリアは少し落ち込んだ様子でかなめのまつカウラの愛車『スカイラインGTR』に向けて歩き出した。
誠は球場までリンの運転するかえでの高級乗用車で来ていたので、一人で帰るわけにもいかずそのままバックネット裏で談笑するかえで達の方へと野球道具を担いで歩き始めた。




