第57話 医務室に行け、それは嵯峨の罠以外の何物でも無かった
結局、終業時間まで誠は医務室でひよこと一緒に居た。
しかし、そこで感じたのはこの嵯峨の推薦の場所が嵯峨の悪意による他の場所よりも居づらい『最悪の場所』だったという現実だった。
最初はひよこは健康優良児で法術訓練の時と法術関連の最新情報交流のとき以外顔を合わせない誠の訪問を満々の笑みで歓迎していた。
そして、この半年で書き溜めたという五十冊に及ぶポエムノートをテーブルに置いて誠に読み聞かせるという誠が予想していた通りの展開が繰り広げられた。
そこまでは誠は覚悟はしていた。ただ、かなめの銃弾や整備班員の悪意に満ちた嫉妬の視線、そして運航部の女子が誠のアレをかたどった女性用おもちゃをどう使うのが楽しいかをおしゃべりしている中でアメリアに無理難題を持ちかけられるくらいならかなりマシだと安堵の気持ちでひよこの良く分からないポエムを聞いていた。
しかし、一つポエムを読み終えるたびに、ひよこと付き合っている西との思い出を語り、その時に西がいかに期の効くセリフを吐くという『モテない宇宙人』である遼州人の誠にとっては受け入れがたい状況が展開されることになるに至り事態は一変した。
誠の明らかに嫉妬に満ちた表情を無視してひよこは西がいかに気の利く真面目な青年かということを切々と語る。
『おい、西。お前が女郎屋で童貞を喪失したことをこの場でひよこちゃんにバラしても良いんだぞ……そのくらいの覚悟はできてるんだろうな……』
遼州人らしいメラメラと燃え上がるモテ男に対する嫉妬の念がそんな思いを誠に沸きあがらせた。
そして途中からはひよこは西との出かけた美術館や遊園地の思い出ばかりを語るようになり完全にポエムは添え物になった。
「ひよこちゃん……僕はひよこちゃんの詩を聞きたいんだけどな……」
西への嫉妬に燃える誠はその感情が顔に出るのを必死になって堪えながらひよこに向ってそう言うこともたびたびだった。
『あの『駄目人間』。僕が遼州人でこういう心理状況に陥ることを知っててここに誘導しやがった……アレは本当の悪人だ。そんなに僕をおもちゃにするのが楽しいのか?これだったらまだ機動部隊の詰め所でかえでさんに甘い言葉をささやかれながら背後からいつ飛んでくるか分からない西園寺さんの銃弾に怯えている状況の方がマシだ』
西への嫉妬は自然とあの『悪内府』と呼ばれて母国甲武でもその性格の悪さで知られている嵯峨への怨嗟の心で満たされていった。
そんな誠の引きつった笑みの前でもひよこはまったく誠のそんな心理状態を気にすることなく西とののろけ話を続けていて、ただそれに心のこもっていない相槌を打つのが誠の終業時間までにしていたことのすべてだった。




