第53話 皇帝はしばらく先で、その前に敵をなんとか
「そこで話は戻るが……気の早いエリート官僚の鷹司さんのことだから今すぐにでもお前さんにかえでと結婚して皇帝になってくれとか言ったでしょ?それ、俺としてはちょっと困るんだよね」
再び『駄目人間』の顔に戻った嵯峨はそう誠に尋ねてきた。
「どう困るんです……ああ、今月末にゲルパルトの選挙監視任務の出動があるからですか?別にそれくらいのことは鷹司部長も分かってるんじゃないですか?」
誠は先ほどの鋭い視線から九に緊張感が目から消え去る嵯峨の顔がまるで魔法のようだと思いながらそう答えた。
「いいや、ちがうの。俺達には敵がいるじゃん。そいつ等をどうにかするのにお前さんとかえでの力はどうしても必要なの……あと一年……くらいは待ってくれない?俺の今のここの任期は3年有るから2年は皇帝が出来るんだ。その後も元皇帝としてハーレム生活を保障してあげるから……悪い話じゃないでしょ?」
嵯峨のいつものように何を考えているか分からない発言に誠は戸惑っていた。
「そんな僕はハーレムとか望んでるわけじゃないですし、皇帝とかなりたいわけじゃないですよ」
誠はそう言うが今のぎすぎすした女性同士の争いにつかれている誠にはハーレム生活が遠ざかるのは少し残念だった。
「まずは『廃帝ハド』だ……今のところは大人しくしてる……なんでも秀美さんが手に入れた情報では奴はなんとか『ビッグブラザー』との交渉のテーブルに着きたがっているらしい。アイツの娘……お前さんの姉さんであるリョウ・カラがしきりと『ビッグブラザー』とつながりのある民間企業を回って話をいるそうだ……そうなると厄介だよね……力を持った『廃帝ハド』。情報をすべて掌握する存在『ビッグブラザー』。この二つが手を結ぶとなれば俺達のしていることは『廃帝ハド』には丸見えってことになるんだから。まあ、この国を400年間戦争の無い、そして経済的に繁栄した状態で維持してきた『ビッグブラザー』が力を持てば間違いなく戦争を起こす『廃帝ハド』と対等な関係で手を結ぶとは到底思えないけどね」
話していることの深刻さの割に嵯峨の表情はまるで茶飲み話でもするように緩く緊張感に欠けていた。
「そしてルドルフ・カーンだ……俺の情報網に引っかかってこないということはしばらくは根城のアステロイドベルトに戻って戦力の再編成中なんだろうけど……コイツは表に出ていてくれた方が俺の精神の健康には良いんだよね。アイツは根城に帰ったということはまた何か大きなことをやりだす証拠……いやだよ、『近藤事件』の二の舞なんて。しかも、今度はカーンの爺さんの手ごまには法術師がいることは確定事項なんだ。近藤の味噌頭が懐かしいよ」
そう言うと嵯峨は静かにすい終えたタバコをテーブルの上の灰皿に押し付けた。




