第52話 重婚以外に何の特権もない皇帝が好きでもない政治としてやったこと
「だってさあ、俺の親父の霊帝。コイツ後宮に7,000人の美女を囲って自分の妻だと称して好き勝手やりながら覚せい剤でぶっ飛んで政治なんて顧みない割に贅沢の限りを尽くしてた人間だよ。そんなのの息子に生まれてみ?そしてその親父をランの力を使って追い落として独裁者に君臨した遼南共和国大統領のガルシア・ゴンザレス。コイツも大の女好きでしかも贅沢が趣味と言うような男だ。そいつ等を見ていた国民がその後釜について再び帝政を復活させた俺に贅沢なんて許すと思うのか?」
急に真顔で嵯峨は誠に向けてそう言った。
「さっき言ったのはほとんど冗談としてもだ。俺はまず、法律の整備、官僚機構の徹底的な効率化、軍備の的確な配置により最小限の性能の兵器と人員で領有権で揉めてた西モスレムを身動き取れなくした。そして、甲武の『官派』に煽られて甲武編入を唱えてた東海軍閥を例の『うどん戦争』なんていう奇策で吸収して併合した。そして問題は背後にアメリカの居る南都軍閥のアンリ・ブルゴーニュ。武力でぶつかればここぞとばかりにアメリカが本格介入してきて負けるのは目に見えてたからアンリ・ブルゴーニュの目の前に『絶対勝てる保証付き選挙』と言うエサをぶら下げて武装解除させてみたくもないアイツの面を毎日拝むことになる宰相の位にしてやることを条件に遼南を統一した……そんな俺に女の相手をする時間があったと思う?」
嵯峨の立て続けの言葉に誠は言葉を失った。
遼南内戦が終わったのが10年前。その2年後に遼帝国は甲武への併合を望む花山院直永を首班とする東海軍閥を全戦域に等しく軍を配置して責めるわけでもなくうどんを茹でるという奇行で唖然としている東海軍を横目に手持ちの少数の部隊を直接指揮して花山院直永の拠点を襲撃してこれを暗殺して東海軍閥を併合した。
そして南都軍閥には高額納税者のほぼすべてが地球人であり、その地球人はアンリ・ブルゴーニュとアメリカに絶大な支持を隠していないことに注目した嵯峨による憲法改正と議会開設選挙と言う提案をアンリ・ブルゴーニュに行い、これにより自分を支持する当時の宰相の政党遼南人民党を見殺しにしてまで南都軍閥を解体させた嵯峨にそんな暇がなかったことは容易に想像がついた。
「でもまあ、アンリも馬鹿だよな。あの憲法の憲法は皇帝の気分でいつでも停止できるという条文とこの国の最高裁判所に当たる法科院の官僚は俺にしか指名権がないという条文を読み落としてるんだもの。まあ、そんな強権はすぐに使っても意味はない。だから、アイツには何にもできない無能な宰相の地位にしばらくは居てもらわないといけないんだ。……その後の命の保証はしないけどね」
そう言う嵯峨の目が惨忍に光るのを誠は見逃さなかった。カウラが言う『殺しに慣れた男の目』がそこにはあった。




