第50話 皇帝……嵯峨はその特権をすべてはく奪済みだった
「まあ、そっちの方は毎朝のかえでの母乳と毎週末のかえでの母乳料理をお前さんが楽しむということで解決したとして……」
嵯峨は誠としてはまったく問題は解決されていないことを解決済みと決めつけて話を続けた。
「鷹司さん……飯時にお前さんを呼びつけてたな……話の内容は大方予想がつく……別にいいよ、それでも」
すべてはお見通しだというように嵯峨は誠に向けてそう言った。
「でも……隊長はそうすると皇帝じゃなくなるんですよ。そうしたら……」
誠はすべては嵯峨の手の内なのだと悟ってそう言うしかなかった。
「うん、一日も早く皇帝を辞めることが俺の望みだもん。それにあの宰相のアンリ・ブルゴーニュの面、そして領土交渉で顔を合わせる西モスレムのスルタンの自分には100人の妻がいるんだという自慢話を聞かなくて済むのは俺としては大歓迎。確かに、鷹司さんが言うようにお前ひとりじゃあの二人の悪党相手に渡り合うなんてことは不可能だけど……お前さんにはかえでが居る。かえでならあの二人と互角にやりあえる。何なら俺も知恵を出す。そのくらいのことは俺が楽が出来るんだからしてやっても全然かまわないよ」
まるで皇帝の地位に未練がないというように嵯峨はそう言ってタバコを手に持って笑った。
「でも……僕は一東和市民です。そんな豪華な暮らしなんて……」
誠がそう言うと嵯峨は思い切り嫌な顔をした。
「ああ、俺の作った法律でね。料理人とかの使用人は遼帝国にわざわざやってくる旅行好きの東和の暇な金持ち向けの高級中華料理屋に移籍させちゃったんだ。だから、飯を食いたきゃかえでに頼んで日野家の金で料理人でも雇ってね。ああ、今寮にすでにコックは居るじゃん。それで問題解決だね。遼帝国の皇帝の衣装はすでにあるし、宮殿の修繕なんかはあれは皇帝の私物じゃなくて『役所の建物』と言う扱いだから遼帝国の皇帝には一円も自由になる金はない。俺はそれでよかったから。あの国は皇帝が支配する国。だったらその皇帝が自分の金を持つ必要なんてないし、あの国は貧しいからそんな出費からまず削らないとね」
嵯峨はあっさりとそう言って唖然とする誠の顔を見つめた。
「それって……皇帝になっていいこととか何かあるんですか?」
一銭も自由になる金がない、食事も自分持ち、しかも自分を敵視して来る宰相や議会や隣国の国王の相手までさせられる。すべての面倒ごとを嵯峨はただ押し付けたいだけなんじゃないだろうかと誠は邪推するしかなかった。




