第48話 帰りたくない自分の席、行きたくない隊長室
男子更衣室で普段の勤務服に着替えた誠は廊下を機動部隊の詰め所に歩いていた。
かなめとかえでが喧嘩を始めて以来。機動部隊の詰め所での事務仕事は誠にとっては拷問だった。
かえでの浮気癖や露出行為などの性犯罪が止まった代わりにかえでの誠への『ヤンデレ』レベルの病的な要求は増え続けていた。
一方、かなめは彼女なりにかえでとの差別化でも狙っているのか露骨に殴る蹴るの暴力行為で誠が被虐嗜好に目覚める機会を狙っている。
さらにそれに刺激されてやたらとスキンシップを取ってくるカウラやリン、そしてあからさまに下着が見えるようなポーズをとったりなど誠の気を引こうとするアンの態度も誠を憂鬱にする原因の一つだった。
部下の暴力行為には『愛ゆえに殴る』の教育方針の機動部隊長のランは見て見ぬふりを続けている。
「このまま部屋に戻るのは嫌だなあ……」
そんなことを考えると誠の足取りは次第に重くなる。
「なあに、憂鬱そうな顔をしてるのかな?」
そんな時に声をかけて来るのは嵯峨かアメリアのどちらかなのだが、今回は嵯峨の方だった。
「ああ、隊長。どうにも最近……」
廊下で自分の置かれた異常な環境への不満を捕ろしようとしていた誠だが、嵯峨は首を振ると隊長室に入るように誠を導いた。
「廊下でかえでとかなめの変態趣味について話すなんてお前さんもあの姉妹と同類なのか?良いから座りなよ、それと昼、華子さんからいろいろ言われてたみたいだからしっかり話しとこうと俺も思っててね」
嵯峨は部屋に入るとソファーに腰かけるように誠に指さした。
誠は憂鬱な表情で嵯峨の指さすままにソファーに腰かける。正面に腰かけた嵯峨はいかにも楽しくて仕方がないという顔で誠を見つめていた。
『他人の不幸は蜜の味』
そんな言葉が誠の脳裏をよぎる。特に色恋沙汰で人が不幸になることを本能的に面白がる本能を持ち合わせている遼州人の嵯峨には今の誠の境遇はちょうどいいおもちゃでしかなかった。
「かえでの女癖……最近すっかり鳴りを潜めて一安心だよ。アイツが狙うのは間違いなくワイドショーのトップを飾りそうなセレブばかりなんだからそんなので問題起こされたら俺も迷惑だったしね。その生贄としてお前さんがかえでの母乳を毎日飲まされてる……別にいいんじゃないの?あの風紀に厳しい甲武でも母親が路上で乳飲み子に父をやるのは警官も温かい目で見守ってるよ。そんな毎日アイツの異常としか思えない母乳を飲まされたり、週に一度は集めた母乳で作った料理を食わされたりなんてどこにも犯罪的要素はないよね?島田達の中にもそう言うビデオが好きだって奴も居るよ……幸せな婚約生活だわな」
完全に誠をおもちゃにする気満々で嵯峨は誠を見つめて満足げにそう言った。




