第42話 行為の最中にだけ、そして自分にだけ大事なことを話す男
「私は確かにあの男を知っていた……あの男が『ビッグブラザー』であるということを……でも、嵯峨さんはなんでそんな大事なことを行為で私の意識が飛びかけてる時に限って言うのよ……それがあの人の性的嗜好なの?まあ……それでより気持ちが高ぶったのは事実だけど……」
リムジンを見送りながら安城は誰にも聞こえないような小声でそうつぶやいた。
嵯峨は大事なことは安城には性行為中に言うことが多い。ことが終わり、嵯峨の責めで動けなくなって身体が快楽に震えている時、もう一度聞き返そうとなんとか口を開いてそのことについて深く質問しようとすると嵯峨はすでに隣で順番を待って二人の行為を見てお互いに嵯峨との行為をより高めようとしていたお蔦か春子のどちらかと好意を始めており、残った一人がまだ痙攣している安城の身体を慰めにかかる。
「まあ、あの人らしいというか……」
安城はため息をつくと自分を見つめてきていたボディーガードたちが安城に関心を失ったことを確認してそのままその場から近くの大足町の地下鉄の一番近い入り口を目指して歩き出した。
『『ビッグブラザー』は20年前の戦争終結とともに考えを変えたと……あの最中に何度も嵯峨さんは言うけど……そのタイミングは分からないわけでは無いわ。第二次遼州大戦……東和は地球圏と反『祖国同盟』の遼州圏の遼北以外の国の戦時国債の無制限受け入れを宣言した……そしてその莫大な資金を元手に地球圏の主要都市にゲルパルトと甲武が行った先制核攻撃は無意味になり、その打撃から不可能と思われた反転攻勢に打って出る準備をする事が出来た……そんなことは私だってわかる……と言うか世間の常識じゃないの……でもなんでその戦争の結末が付いた20年前に『ビッグブラザー』は考えを変えたの?」
車道を行きかうタクシーと営業車両の群れを見ながら安城は嵯峨の行為の最中に普通の男性ならば安城の身体を褒めて快楽に導くような言葉を話すべきところでそんな言葉ばかりはなす嵯峨について思っていた。さがも、お蔦や春子、そして時に現れる時美と呼ばれる安城も会ったことがある嵯峨の弁護士時代の助手で今は嵯峨の営んでいた弁護士事務所で事実上活動している唯一の弁護士である派手な女との行為と自分との行為が嵯峨にとっては別の意味を持っていることのように感じられてその特別に扱われているという優越感から自然にほほ笑んでいた。
春の暖かい風が安城の頬の人造皮膚をなでる感覚が心地よかった。そして、この瞬間も自分が嵯峨を求めている事実を思い知り、安城は頬を赤らめた。




