第40話 企業経営者と官憲の女
「ほう、君が昨日寝た男がそうだというわけか……で、嵯峨君は元気かな?私も元東和共和国大統領として彼の司法局実働部隊設立委員会の委員長就任には協力させてもらった一人だ。軍隊が動く……それはすでに戦争行為だ。では、それが警察だったら?そう言う彼の言葉には非常に興味を引かれたものだよ」
菱川はそう言うと安心したように手をボディーガードの一人に差し出した。ボディーガードはその意味をすぐに理解して葉巻とシガーカッターとターボライターのセットを菱川に差し出した。
「私の私生活までご存じとは……四大財閥で他の三つの追随を許さない菱川グループの総帥らしい情報量ですね。お忙しいでしょうからお時間は取らせません。5分ほどよろしいでしょうか?」
安城は自分と嵯峨との関係をどこまで菱川が知っているかを伺いながらそう尋ねた。
「ああ、司法局への協力は民間人としての当然の義務だと私は考えるよ……で?君は何を聞きたいのかな?」
菱川は慣れた手つきで大きめの葉巻に吸い口を切ると素早くライターで火をつけた。
「先月……縦須賀の東和海軍の基地に入港した艦があった……どこの国籍の艦かご存じですか?」
試すような口調で安城はそう切り出した。しばらく葉巻の火が安定するまで葉巻に息を吹き込んでいた菱川の表情が少しだけ歪んでいるように安城には見えた。
「ああ、知っている……フランス共和国だ。なんでも水の使用料が予定より多かったということでね。東和海軍は同盟条約で地球圏の国交のない国の軍隊への物資の支給が出来ない。それで我がグループの協力会社に非常用の水と食料を運ばせた……あくまで人道上の措置……企業経営者なら当然の話なんじゃないかな?実際あの国の企業には我がグループの銀行が多額の出資をしている……そう言う企業利益にも沿った行動……何か不審な点でも?」
ようやく葉巻の煙が安定してきたことを確認すると菱川は余裕をもってそう答えた。
「その割にはその水と食料を運んだ会社がすべて法術関連の技術開発をしている企業と言うのは……ずいぶんと出来過ぎた話のように感じられますが……どう思われます?」
安城はあくまでしらを切りとおそうとする菱川に向けて強気でそう言って反応を見た。
「ああ、そのことはどれも本社が立浜にあるという共通点をあなたが見失っているということなんじゃないですかな?たぶん、あなたの部下がフランス艦の監視をしていたようだが……うちがフランスに技術提供をするということを前提に監視をしていたからそう見えただけ。人の思い込みと言うものは恐ろしいものだよ……私も気を付けたいね」
悠然とタバコの煙を吐く菱川の余裕の表情だったが、安城にはその余裕の表情がかつて見慣れたものだったという感覚の方が話の内容よりも気になる事だった。




