第34話 暗躍する皇帝と傀儡と化した民主的宰相
「ならば、その後釜に誰が座るか……現宰相の歪んだ元地球人だけが投票権を得られるという選挙システムを隊長が提案して勝つと決まった選挙に打って出ることで武装解除した南都軍閥の首領アンリ・ブルゴーニュ。彼は元地球人の為だけに政治をやっている。国民の99%を占める選挙権を持たない遼州人の事は何も考えていない。有権者の期待に応えるのが民主主義なんだから当然の帰結よね」
鷹司の笑みには毒があった。
「そんな無茶苦茶な条件……隊長はよくそんな提案をしましたね」
誠もその嵯峨の何も考えていないとしか思えない提案に唖然とした。そしてその結果がもたらすことについて嵯峨が考えていなかったとは思えなかった。
「でもね、その選挙で選ばれた国会やその国会が選んだ宰相には実は大きな枷が隊長が作った憲法により嵌められていた。まず、その憲法は欽定憲法……皇帝である隊長が与えた憲法でそれを変える権限は皇帝にしかない。議会はいくら騒いでも憲法の条文を一条たりとも変えることができない。せいぜいできるのは憲法解釈を変えることくらい」
鷹司は笑顔でそうつぶやいて一息つくべく自動販売機で勝って来た缶の紅茶に手を伸ばした。
「そして宰相の権限もまた、憲法により厳しく制限されている。そのすべての決定には皇帝の承認が必要になる。隊長が本当に行方をくらませている間はそれこそアンリ・ブルゴーニュは何一つできなかった。司法局実働部隊準備委員会の委員長の席に隊長が座って、嵯峨惟基と献帝が同一人物であるとアンリ・ブルゴーニュが知って溜まったこれまでの決定事項を隊長に届けたらそのほとんどを隊長は却下した。だから、アンリ・ブルゴーニュは何もできない宰相……アンリ・ブルゴーニュとしてはかつての霊帝を傀儡として使ってすべてを牛耳った同じ元地球人であるガルシア・ゴンザレスと同じ立場に慣れると信じて受けた民主選挙が実は自分が傀儡として皇帝である隊長にいいように使われるだけの存在だとその時に初めて知った。その時のアンリ・ブルゴーニュの顔が見て見たくなるわね」
缶の紅茶を飲みながら鷹司は無邪気に笑った。
「ただ、アンリ・ブルゴーニュも馬鹿ではない。さも無ければあの激しい遼南内戦の中で一軍閥の首領としての地位を持って遼南共和国と遼南人民軍の二大勢力の間を生き抜くことなんかできないわ。そこでアンリ・ブルゴーニュは南都に基地を持つアメリカを頼った……アメリカの協力で抵抗勢力である献帝を排除する。その見返りにアメリカは遼帝国に眠る膨大な金を手にする。どちらにとっても悪い話では無いわね」
優雅に振舞う鷹司だが、その話の深刻さに誠は息を飲んだ。




