第31話 虚偽を必要とする民主主義の偽善性
「これは極論かも知れないけど、地球に居る間の地球人達……いえ、20年前まで地球流に生きることが当たり前だった遼州圏の元地球人も含めての話なんだけど、彼等は権威に無批判に従うことでしか幸せを感じることができない……それか自分より下の立場の人間が無批判に自分の意見を受け入れることを前提にしてしか話すことができない……そんな存在だった……だから、様々な政治体制が生まれたけれど何一つ変わらなかった。常に戦争に塗れ、常に憎みあい、常に所属する集団を盲目的に賛美し続けた……民主主義であろうと帝政であろうとその点だけは変わらなかった」
鷹司はしばらく黙り込んでいた誠に向けてそう言った。
「でも、いまかえでさんやかなめさんのお父さんは民衆の政治の為に民主主義の政治をしていますよ?」
誠は二人の問題の多い姉妹の父であり、平民の地位向上を目指して政権運営を行う甲武国宰相西園寺義基の事を上げてそう言った。
「でも、あの人は嘘つきだわ……というか、民主主義とそれ以外の体制の違いはそこにある。民主主義で政権を握るには嘘をつく必要がある。その理由は、主権を持っている人が多すぎるんだもの。ある人にとっては真実でも他の人にとっては虚偽でしかない主張をし続けなければそもそも民主主義で政治に関わるための議員になる事すらできない。西園寺義基公の悪口を知ってる?『稀代のペテン師』。あの人も目的の為なら平気で嘘をつく。嘘無しに民主主義は成立しない」
鷹司はふざけた調子でそう言った。
「それじゃあ、王様は嘘をつかないんですか?」
誠は一度も選挙に行ったことは無いけれども一応は民主主義国家を自認している東和共和国の国民としてそう言った。
「王様も嘘をつくわよ……でもその口から嘘が出た瞬間にそれは本当のことになる……まあ、家臣たちが本当のことだと信じ込むだけなんですけどね。問題はそんなところには無いの。絶対的権力者が他の評価を気にせずに全権を掌握することができれば『嘘を必要としない』政治を行うことができる……神前曹長……ソクラテスってご存じ?」
鷹司の言葉の意味を計りかねる誠だが、誠は事実ソクラテスを知らなかったので首を横に振った。
「いわゆる民主主義がいかに病的に壊れた政治制度化と言うことの証明のために死んでいった哲学者よ。彼は民主主義には問題が多いと言った。当時、彼が住むギリシャのアテネでは民主主義に疑問を持つこと自体が民主的に禁止されていた。その時点でその人物には死刑が課せられることに民主的に決められていた……そしてソクラテスもその法に従って民主主義を否定する他国へ逃げようという弟子たちの申し出を拒否して毒杯を飲むという死刑を受け入れた……それが民主主義のもたらすもの」
そう言う鷹司の言葉を半分以上理解できないまま誠は呆然と聞き入っていた。




