第30話 専制か扇動か
「あら、不思議な顔をしているわね、君。もしかしたら君はこんなことを言いたいのかしら『民衆を大事にする王侯貴族とそれを虐げる王侯貴族とどっちが多かったんですか?虐げる人の方が多かったんじゃないですか?』とね……」
鷹司の誠の思考を読み切ったような言葉に誠は再び絶句した。
「それは、虐げる暴君の方がはるかに多い……というよりもまるでそうすることが義務であるかのように地球圏の歴史上の英傑と呼ばれるような王侯貴族達は庶民を徹底的に苛め抜いたわね。でも、今の地球圏の民主主義の主役であるはずの庶民はどんな暮らしをして何を考えているのかしら?」
そう鷹司に言われてランが地球に出張に行くたびに言う小言を思い出した。
「地球圏の人達は飢えて死ぬか、放射能で40歳にも満たずにがんで死ぬのが普通だそうです。病院に行くにも保険証なんて誰も持ってないどころか軍と役人しか行けない病院しかないって。仕事は全部AIがやるから会社員と言うのはそのAIが入っているデータセンターの掃除とかロボットを導入すると人を雇うよりコストがかかる仕事しかないから東和のコンビニバイトの三分の一の給料しかもらってない。それで満足化と言うとそうでも無くてそんな生活を強いているのは隣国が自分よりもいい生活をしているからだと国から支給されたテレビを見て言われて、それを信じてこれも国から支給された通信端末を使ったネットで今すぐにでも隣の国に核ミサイルを撃ち込むように軍に働きかけるべきだとか言うことがその日常のすべてだって……」
誠は以前、島田に見せてもらった地球のネットに映し出される隣国への憎悪の言葉に吐き気を覚えたことを思い出した。遼州圏ではネット環境があるのは20年前までは東和共和国と遼州の月であるハンミン国、そして外惑星のさらに外を回るラップ共和国くらいのものだった。
元々、遼州人しかいない東和共和国のネットはひたすらエロの洪水で政治的話など無粋と言うのがいわゆる一般の人々が『ネット民』に持っているイメージだった。20年前の第二次遼州大戦後、経済的に復興を遂げてきた敗戦国ゲルパルトや経済発展著しい遼北、そして政治体制の緩和を進めている外惑星連邦でネットが普及し始めるとさすがの東和の人々もネット=エロの構図は恥ずかしいと思うようになっていた。
それまで年齢制限の無かったエロサイトに年齢制限が設けられ、ネットに悪いイメージしか持たなかった人々が参入するとその世界は一変した。
今度はネットはほとんど市民の日記帳と化した。
その日の朝ごはん、旅行先の写真、ペットの写真、趣味の写真。そればかりがべたべたと画面に張り付けられている。自然とエロもその中の一分野に落ち着いてしまった。
そこでは相変わらず地球圏のような人の感情を動かすような言葉はまるで表示されることが禁じられているかのようだった。
ただ、誠はそのことを自分達が遼州人だからだと自然と受け入れるようになっていた。




