第3話 監督とキャッチャーが捨てると言ったゲーム
結局、二人の喧嘩の最中にアン、島田、そしてかえでの副官兼愛人の第二小隊二番機担当の渡辺リン大尉が凡退して4回に入るのだが、かなめとかえでの喧嘩は収まりそうにないので仕方なく誠はマウンドに上がるつもりで準備を始めた。
「ピッチャー交代!島田だ!この試合は捨てゲーム!今のところうちはリーグでは勝ち点一位だ!これで負けると『菱川重工豊川』と『千要マート』それと『豊川市役所』と勝ち点では並ぶが、得失点差でうちの首位は揺るがねえ!監督のアタシが決めた!かえで!テメエは男は神前以外は認めねえと言うがそんな個人的な感情は関係ねえんだ!これからもこういう試合があるのは間違いねえ。その時島田が使えねえと差し支えるんだ!これは監督の決定だ!」
かなめはそう叫ぶと球審に向けて歩き始めた。
「まったく姉さんの理屈は通っているようで通ってないね。島田准尉は『まだコントロールが定まらない』と僕は言っただけだ。夏までにはちゃんとコースを狙って投げられるように誠君が鍛えてくれるだろう……島田准尉……準備は?」
かえでは大きくため息をつくとグラブを外野手用の軽いものからピッチャー向けの大きめのものに変えた島田に氷のような視線を向けた。思わず後ずさる自分の面倒をよく見てくれる島田に同情の視線を送りながら誠もまた、おそらくセンターに回るアンに代わってライトに入ることを予想して外野手用の柔らかいグラブに嵌め変えた。
「神前先輩……僕……センターは初めてですよ……緊張してます」
小柄な男……だが、普段は女装して生活して誰も違和感を感じない毎日彼氏とホテルに通うのが日課と言う『男の娘』であるアンの甘えるような言葉にびくりと背筋を震わせた誠はそのまま球審の所から帰って来たかなめに目をやった。
「ピッチャー島田。センターはアン、ライトが神前だ……この布陣はこの前のキャンプでもしっかりやったよな……結果を出せ。特に島田……ファーボールを出してみろ……後で射殺する」
不機嫌そうにかなめはそう言うとダグアウトの椅子にどっしりと腰を下ろした。
「あの様子じゃ……島田先輩……西園寺さん本当に撃ちますよ」
誠はそれだけ言うとライトの守備位置に向けて走り出した。顔面蒼白の島田は明らかに嫌々マウンドに向かって歩き出す。
「3点差で試合を捨てるとは……姉さんの短気にも困ったものだ。島田准尉、とりあえずこの試合は捨てて良い。打たれてもいいから全球ストライクゾーンにストレートを投げてくれ」
こちらも半分やけ気味にかえではそう言うとマスクをかぶって守備位置に急いだ。この時点で試合の決着はもうすでについているようなものだった。




