第26話 『皇帝の剣』を継ぐもの
「まず、神前と言う苗字の意味……そしてその神前と言う苗字を持つ者の中で『神前一刀流』の正統後継者の息子に生まれることの意味……神前曹長はちゃんとお分かりになられているのかしら?」
鷹司の言葉に誠はすぐに母の顔を思い出した。
現・神前一刀流当主神前薫。父の誠一は母と結婚する前の名字は田中で養子である。
母の薫が法術師であり、しかも『人類最強』幼女のランや『甲武の鬼姫』の名で知られたかえでの母康子を別としたら最高クラスの実力の法術師であるかえですら凌駕する実力を母が持っていることを知ったのも嵯峨やランの失言によるものだった。
そんな薫が何者のか。誠は母を思い出すたびにそのことを考えていた。
「鷹司部長。その言葉の意味を正確に教えてください」
弁当を食べ終えた誠は包み紙をまとめると温泉卵はおやつに取っておくことにして真顔でそう尋ねた。
「なるほど、神前曹長は何も知らないんですね。でも、それは罪なことですよ。少なくとも、西園寺家やあまたの血の色を甲武建国の際に偽装した血の宿縁とは無縁な貴族とは違い、摂関家の一角をなす鷹司の血を引く……私にはそれは罪だと言えます」
鷹司は真正面から誠を見つめてはっきりとした口調でそう言った。
「確かに神前と言う苗字は遼帝国で動乱があった時に東和共和国に遼帝国から亡命してきた遼帝家の人間が名乗る名字と聞いていますが……それならうちの看護師の神前ひよこ軍曹も神前ですよ。それとうちが剣道場なのは事実ですけど……」
誠は鷹司の言葉と以前かなめが言っていた甲武建国の際に旧日本から名家の出なら貴族として優遇してやるとの誘いに乗って家系図を偽造して貴族に成り済ました貴族が多くいるという話を誠は思い出した。
「まあ、遼帝国は建国後200年は鎖国状態でしたが、そこでも皇位継承をめぐり小規模な追放合戦がありましたからひよこ軍曹はおそらくそんな追放された遼帝家の出なんでしょう。ただ、それが『神前一刀流』の当主を名乗る神前家となると意味が違って来る」
鷹司のそれまでの笑顔が消え、真剣な表情で誠を見つめてきた。
「それにどんな違いが有るんですか?ひよこちゃんも僕も遼帝国の太宗遼薫の子孫と言うことは同じなんじゃないですか?」
その真面目な鷹司の視線に誠はそう言い返すのがやっとだった。
「『神前一刀流』は遼州独立戦争の英雄『賊将バカラ』の剣を受け継いだ剣……その流派の当主は本来であれば皇帝になって当然の人物であるということの何よりの証……すなわち、神前曹長。あなたは、現皇帝遼献……つまり隊長よりも皇帝の地位に近い位置にある人物なんですよ」
鷹司の言葉の持つあまりに衝撃的な意味に誠は打ちのめされた。




