第23話 かえでの望む世界『ソドム120日』
機動部隊の詰め所に戻った誠達だが、誠も学生時代からそうだが全員にやる気が感じられなかった。
「島田は絶対『自動車部』を作るだろうな。そして、アメリア……アイツいくつ部活を作るつもりだ?まず『映像技術研究部』とか言う名目で自分の趣味のエロゲを作るための部を作る。そして『落語研究会』……アイツ、東和で女流落語家に入門する時、伝説の落語の名盤『圓生百選』から師匠の好きなものを演じますからどうぞとか言ったとか自慢してたからな……それこそ本格的に色物抜きで落語を始めるぞ。そして『漫画研究会』。これは神前は無理やり入部させられて自分は原作とか言って18禁どころか猥褻図画配布で逮捕されるようなものを神前は無理やり描かされる……なあ!困ったもんだな!神前よ!」
第一小隊の席に着いたかなめは隣の第二小隊の島の誠からも聞こえるような大声でそんな独り言を言いながら誠に話題を振ってきた。
「僕は『フランス文学研究会』を作りたいんだ。僕はある作家に非常に影響を受けて人生を歩んできた。誠君、君にもぜひ参加してその作品のすばらしさについて語り合いたいと思うんだけどどうだろうか?」
姉妹喧嘩の最中のかえでは誠と話題の糸口を作りたいかなめを邪魔するように誠に語り掛けてきた。
「『フランス文学』ですか?僕はそもそも日本語の能力自体に自信のない理系人間ですよ……それが外国語の文学なんて……とてもじゃないですが無理ですよ」
今は誠はかえでの部下である。そしてかえでは一応は誠の『許婚』でもある。誠は会話の相手としてかえでを選んだ。
「ふっ、変態の道を歩むのか?勝手にしろ!」
誠に無視されたことに腹を立てたようにそう言うとかなめは立ち上がってタバコを吸いに出かけて行った。
「そんなに硬く考える必要はないんだ。僕の尊敬する20世紀の日本のフランス文学者に澁澤龍彦と言う人物がいる。添えは素晴らしい文章でその僕の望みのユートピアの世界をえがいたフランスの作家の作品を翻訳してくれている。君にもぜひ読んでもらいたい。そんな素晴らしい彼でも翻訳できなかった作品があるが……まあ、僕は文学者と呼べるほどの文才は無いがフランス語の素養はある。一緒にその世界を理解したいんだ……良い話だと思わないかい?」
かえでは情熱的に誠に語り掛けてきた。
「ユートピア小説ですか……ちなみにその翻訳できないほど素晴らしい作品の題名はなんていうんですか?」
誠は文学など夏目漱石の『坊ちゃん』くらいしか読んだことが無かったので興味を引かれて尋ねてみた。
「ああ、『ソドム120日』と言う作品だ。マルキ・ド・サドと言う侯爵の位を持つフランス革命の乱れた時代にユートピアを実現しようとした作家だ」
満面の笑みを浮かべて笑う誠だが、文系知識ゼロの誠にはかえでの言葉の1%も理解できなかった。
「サド侯爵はいわゆる『サディズム』の語源となった加虐嗜好……つまりSM文学の開祖と呼ばれる人物です。それとかえで様。『ソドム120日』を『ユートピア小説』と理解されているのはかえで様が究極のマゾヒストだからであって普通の人にはアレは『ディストピア小説』にしか感じられませんし、サドもそのつもりで描いたのだと私も原書を読んで感じましたが」
誠の正面の席でリンが恍惚の表情で誠を見つめるかえでにそう忠告した。
そのリンの言葉でかえでの『フランス文学研究会』はただのSMクラブであり、自分がそれに入ればどんなことをさせられるのかの想像がついた誠はとりあえずここは熱い視線を送ってくるかえでが飽きるまで沈黙を守ることを心に決めた。




