第21話 わび茶を信条とする茶人、嵯峨惟基特務大佐の矜持
ハンガーの隊員達のこれまでの鷹司へ向けていた警戒の視線は一気に称賛の視線へと切り替わった。それぞれやりたいことを近くの隊員達と話し合う隊員達の顔は笑顔に包まれている。
この場でただ呆れた顔をしているのは誠と常識人のパーラぐらいのものだった。
『あのー、ここは職場であって遊び場では無いと思うんですけど』
周りの盛り上がる隊員達の中で二人の脳裏に浮かんだ言葉は偶然同じそんな言葉だった。
「でも、工期を考えるとそれほどの予算の消化は見込めません……そこで……隊長」
壇上の高梨はそう言って状況をただ他人事として楽しんでいるように眺めていた嵯峨に声をかけた。
「へ?俺?俺は貧乏人だよ?金の使い方なんて……そりゃあ、かなめ坊みたいにオッズが動くほどオートレースに金をかけるとか、一月有給取って吉原で一番の嬢の最上級のコースを営業時間中ずーっと抑えるとかしか思いつかないんだけど……」
金と言うものにまるで執着も縁も無い嵯峨に大金を無駄遣いするアイディアを出せと言うこと自体がそもそも無理な話だった。
「いえいえ、ご謙遜を。嵯峨家は二度の極東核戦争で滅んだ裏千家に代わり裏千家家元として茶の道の第一人者として知られている家柄。そして嵯峨家の家宝は天下の名物『曜変天目茶碗』。それにふさわしい茶室、そして庭園、さらにその茶碗にふさわしい茶道具をそろえるとなると……まあ、『福利厚生予備費』の完全消化など簡単なことですわよね?」
鷹司はそう言って笑いかけるが嵯峨は眉を顰めるばかりでまったく乗り気ではなかった。
「華子さん。俺の茶はそんなもんじゃないんだよ。名物をそろえて茶を立てる……それじゃああの一代で滅んだアホなお猿の太閤とやってることはおんなじ。俺はそんな事には興味は無いの。茶室を作る?俺は茶を立てたい時は3時間千円で借りられる市の茶室を借りてそこを使ってるよ。そんな金をかけて立派な茶室を建てたって……それに俺の任期はあと3年だ。その後の隊長はその茶室をどうするのかな?倉庫にでもするの?そんなもったいない金の使い方なんか俺はしたくないね」
そう言って嵯峨は頭を掻きながら鷹司に挑発するような笑みを浮かべてにらみつけた。
「そうおっしゃると思ってましたわ……私も金の茶室なんて作るつもりはありません。ですから茶室は粗末なものを建てるということですが……鷹司の家は華の家。華を飾るのにふさわしい茶室をその隊長好みの粗末な茶室の一隅に飾ることくらいはお認めいただけないでしょうか?」
鷹司はあくまで丁寧に嵯峨にそう語りかけた。
「まあ、いいんじゃないですか?茶室ってのは粗末に作ろうとしても人の手で作らないと意味がないから佐官職人を始めとする人件費がどうしてもかさむ。その程度で無駄遣いが出来るかどうかわかりませんが……隊長権限で許可しましょう」
いつものようにやる気の感じさせない口調でそう言う嵯峨を見て鷹司は満足げにうなずいた。




