第19話 膨張し続ける『福利厚生予備費』の行方
「どうやら……皆さんもお気づきのようですね……私が二点目に指摘したいことが……一点目のありえない出来事がその『福利厚生予備費』と言う名の不可解な予備費の存在がもたらした結果だということに……」
そう言って笑う鷹司の目元にはいつもかなめが戦場で見せる戦闘狂のそれと同じ色があるように誠には見えた。
この金のプロフェッショナルにはかなめが銃火の中で感じる快感と同じ快感があの『裏金』の存在を知った時に走ったに違いない。誠はそんなことを考えながら鷹司がその『裏金』についてどんな結論を出そうとしているのか息を飲んで見守っていた。
「みなさん、顔色が悪いようですわね……それにここは『特殊な部隊』と呼ばれていることは私も存じております。それにこの隊は『悪内府』の異名で知られる隊長の部隊……そんなものの存在くらいで驚くほど私は度量の小さい人間ではありません」
まるで一同を安心させるかのように鷹司はそう言ってハンガー全体を見回して笑いかけた。
隊員達皆のこわばった笑みが一瞬崩れた。
「ですが、あの金が長期に存在し続ける……これはかなり問題があります。あの金額は高梨部長の提案により東和の政府系金融機関のかなり高利な利回りの運用がなされています。皆さんは遠慮なさっているのか知りませんがあのお金が発生した当初に野球場やグラウンドの整備などで高額な出費をされて以降はその利回りが支出を大きく上回っている。そして、三か月に一度は技術部長代理の公的口座から大金が振り込まれてさらに膨れ上がる……正直申し上げてこれ以上あの金が増えることは隊の利益にはならないと私は考えます」
鷹司はそう言って一同をまた笑顔で見まわした。隊員達は再び恐怖に震えるように鷹司の鋭い視線から目を逸らす。
「だったら一気に使っちゃえばいいじゃねえか。そんな事も分からねえのか」
吐き捨てるようにかなめがそう言うのを鷹司は聞き逃さなかった。
「西園寺大尉、実に私の考えと合致した考え方ですね。そうです、あの金が大金として存在し続ける限り問題は解決しないんです。そこで皆さんにご提案があります……皆さん……特に運航部部長……」
そう言うと鷹司は『福利厚生予備費』の一番の恩恵にあずかっている人物である嵯峨の隣のパイプ椅子で鷹司の一挙手一投足も見逃すまいといつもの糸目を見開いて苦虫をかみつぶした表情を浮かべていたアメリアに目をやった。
「なんです?あれはうちの技術が産んだお金……うちの財産ですよ。それを他所から出てきて『無駄遣いしろ』って……何様のつもりですか?」
こんなに人に敵意をあからさまにするアメリアを誠は見たことが無かった。
二人の三十路女は壇上で激しく視線をぶつけあっていた。




