第15話 ランの訓示……それは新たな戦いの予告
ランはそのまま演壇にたどり着いたが、それを見て隊員達から耐えきれず笑いが起きるのが誠の耳にも聞こえてきた。
ランは自称124㎝だと主張しているが、どう見てもさばを読んでいてそれより明らかに10㎝以上背が低い。演壇のマイクは長身の嵯峨が訓示をする事を前提に設置されており、その演説代の影にランの姿はすっぽりと隠れてしまった。
「ランよ、それじゃあうちの連中からお前さんの顔が見えないだろうが。そんな演壇なんて形式はどうでも良いの。うちが今年やること、その時の心構え。そして新管理部長の紹介をしたらおしまい。それでいいじゃん」
演壇隣に置かれた隊長のパイプ椅子に座った嵯峨は演壇からの演説に拘っているランに向けてそう投げやりに言った。
ランもまたどう背伸びしても隊員達の顔が見えないという事実に諦めたのか、そのまま手にマイクを持ってそのまま演壇の前に回り込んだ。
「これより2685年度新年度方針説明を始める!全員起立!」
厳しい口調でそう言うランだが、元々ハンガーに集まった隊員達は全員立った状態である。ランの言葉でアメリアと高梨は立ち上がるが、嵯峨はそれを無視して座り込んだままランをニヤニヤ笑いながら見つめていた。
「そこの『脳ピンク』!オメーも立て!隊長らしいところを見せろ!」
嵯峨のサボタージュはランの予想の範囲内だったようで、すぐにランは嵯峨に向けてそう叫び、嵯峨もランの剣幕に恐れをなして立ち上がった。
「今日から新年度が始まる!去年は前半こそ何事もない平穏な年だったが、7月の『近藤事件』、9月の『バルキスタン三日戦争』そして12月の『遼州同盟司法局違法法術研究事件』等、多くの難題に我々は直面した!そして、第二小隊の新機体が今日より稼働可能になる!このことの意味するところ、遼州同盟機構や司法局の我々に対する期待がますます高まっているという事実の表れだということを忘れないで欲しい!」
ランがいつもの舌っ足らずの口調を無理して演説口調に変えているのが誠から見てもおかしく感じられて吹き出しそうになるのを必死になって堪えた。予想通り、かなめはすでに腹を抱えて声を出さないように笑い始めていた。一方のかえではそんな姉を軽蔑したような冷たい視線で見つめため息をついている。
「もうすでに次回の出動予定は決まっている!今月の最終週はゲルパルト連邦共和国で上下院の総選挙が行われる予定になっている!その際の監視任務の依頼が現首相ヴィッテルスバッハ氏より来ている!あそこは軍が人手不足で元アーリア人民党の武装親衛隊だった公職追放の対象だった人間を軍幹部に迎え入れたことで政治的に不安定な状況にある!バリバリのナチズムに染まった軍幹部に教育されたそれなりに腕の立つ連中が選挙に介入、あるいは選挙後の結果を受け入れずにあの近藤中佐のようなクーデターを行う可能性がある!そう考えるとかなり困難な任務だ!それ相応の気概を持って任務に当たって欲しい!」
誠は次回の出動任務が遼州圏第四惑星であるゲルパルト連邦共和国の選挙監視任務と聞いて不安を隠すことができず、ゲルパルトで製造された戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』の女子隊員の群れの方に目を向けたが、ゲルパルト連邦共和国の前身である敗戦国『ゲルパルト第四帝国』から製造プラントごと東和共和国に移送されて東和共和国で教育を受けた彼女達にとってはまるで他人事のように感じられるらしく、ただ茫然とランの空回りするやる気に冷めた視線を送るだけだった。




