第九話 なんやかや他に責任を押し付けるのは、我が性が故の事。だったらしい。
ぐほぅ……やっちまった。
我が城、我が領土、我が神聖なる都の中心地が、あられもない姿で焦茶色の惨劇に蹂躙されている。
私の……私のお布団が……。
哀哭の嘆きが、憐みの涙に洗われて潤いに満ちた瞳から零れ落ちる。
それはまるで千年の年月が一瞬で瓦解したような……ん?
回りくどいって?もっと簡潔に?
ちっ……しかたがない。じゃぁ別バージョンで。
私の布団の上に、粉袋の中身が盛大にぶちまけられてしまった。
布団の上に広がった粉は、まるで“布団味”の新作カップ麺を開発してしまったかのようだ。
もし商品化されたら、キャッチコピーはこうだろう――
「眠気と炭水化物を同時に摂取! 夢のダブル炭水化物生活!」
……いや、誰が買うんだ。
ってか、布団は炭水化物じゃねぇ。
カップ麺というものは、無精者のための食事だ。布団の上から一歩も動かずに完結できる優れもの。
私は台所や机に移動して食べるような、見せかけだけの甘ちゃん無精者ではない。すべてを布団の上で完結させるのだ。当然、お湯も手に届く範囲内、布団の隣に電気ポットが設置してある。
外装フィルムを破り、王族を迎えるように丁寧にカップの蓋を開けると、中から銀色に包まれた「味わいという彩」を添える小袋が出てくる。
中身は粉スープか液体スープ。
その用途に応じて、大まかに分類すると2通りの種類がある。
粉か液か、後入れか先入れかでその味わいは、携帯麺食に大きな変化を魅せる。
カップ麺が旨いか旨くないかを決める重大な要素として、このスープ袋は王として仮初の城……容器の中に静かに鎮座し、小袋を開けてお湯に解き放たれると、まるで命を吹き込まれた小麦畑のように色づき、長きに渡る工程を経てようやくカップ麺は完成する。
「かやく袋」という薬味が入っている場合もあるが、主役はあくまで麺とスープだ。
ぬ?……またわかり難くなってるって?もっともっと簡潔に?
日本語でおk?一行で?
くっ……あー、はいはい。わかった、わーかーりーまーしーたー。
カップ麺の粉袋を布団の上にぶちまけまーした、私が。
これでいいかな?
結論出したから、もーちょい自由に語らせて。
久しぶりなんだからさ……じゃ続けます。
そのスープ袋を開け、麺の入った容器に入れようとした時、事件は起こった。
小袋を振って、粉のない上部を切り開き、中身を出すつもりだった。
だが振りが甘かったのか、切った部分にもまだ多くの粉が残っていたのだ。
もちろん、大量にぶちまけたわけではない。だが、それでも布団の上にかなりの粉が零れてしまった。
不幸な事故だった。
だが、やってしまったものは仕方がない。
粉を拭き取ろうと、湯で濡らしたティッシュで布団を拭いた。
するとシーツには、おもらしのような薄黄色い染みがじわりと広がってしまった。
――失敗だ。
粉袋の中身をぶちまけたことも失敗だが、その後の対応も大失敗だった。
水分で拭くのは、まぬけ者の愚策だったのだ。
粉なのだから、布団から出て掃除機等で吸えば済む話だった。
なのに、水気を与えてしまった。
なんでこう、私のチャレンジ精神は悪い方向へ行ってしまうのか。
ただでさえ緊急時なのに「粉に水を与える=進化」なんてポケモン的発想を、なぜしてしまったのだろうか。
結果、布団は“進化”ではなく“退化”した。
思い返せば、私はこれまで何度も同じ過ちを繰り返してきた。
今回の失敗も、もう何度目だろうか。
忘れた頃に、失敗は牙を剥いて襲ってくる。
「あぁ……カップ麺が食いたいなぁ……」
地球にいた頃に繰り返していた日常を思い浮かべながら――こんにちわ。
お久しぶりです。
兄です。
みなさんは、ゲームをするとき、何日ぐらい徹夜できますか?
おっとと、話題転換が少し唐突過ぎましたか?
でもなんとか食らいついてきてくださいね。
話題に飽きて唐突に切替るのは、私の形式美でもありますから。
投げっぱなしジャーマンスタイルです。仕様です。
では……改めまして……。
みなさんは、ゲームをするときに、何日ぐらい徹夜できますか?
私は終わるまで、もしくは終わりが見えるまでやり続けるタイプです。
新作のドラクエもファイナルファンタジーも、学校を病欠して四日でクリアしました。
仮病ではありません。
ある意味「病気」という表現は正しいのです。
ゲーム狂いという病気なのですから。
食事も取りません。
手を放す余裕があるときにだけ、簡易的な食事を取る程度です。
経験則から言えば、三日ほど食事を抜いたところで人間は死ぬようにできていません。人間は自分が思っているよりも、ずっと頑強に出来ていますから。
へーきです。
風呂も食事も、トイレですらギリギリまで我慢します。
へーきのへっちゃんイカです。
結論から言うと――
Steamは、私が手を出してよいゲームサイトではなかったのかもしれません。
私にとっては“合法的に人生を溶かす危険なドラッグ”だったのです。
今でも時間の許す限りSteamで遊び惚けています。
「積みゲー」という名の墓場を築きながら。
……さて、一通り想いをぶちまけたところで物語に戻りましょう。
異世界の森に突然転移した私が、呂布や張遼、太史慈という相棒と相思相愛な出会い、そして悲しみの別れを経験しながら小川を見つけ、人里を探す目的で下流に向かって旅をしていた最中の話でしたね。
では……。
---
私は心の赴くままに歩いた。
森の中を、小川のほとりを、故郷を思い出しながら異世界の大地をあてどもなく彷徨った。さびしさに相棒を求め、人恋しさに渇望しながら希望を探した。
正直なところ、安全な衣食住さえ確保できるのであれば生活目標は何でも良かったが、街や村とまでいわなくても、人型の何かとすら出会う機会すら、まだ訪れてはいなかった。
けれど一週間ほど人里を求めて、水の流れに身を任せて漂った先に、ついに目標を発見した。
人です。
小川で水遊びをしている少年と少女。
ケモ耳も尻尾もなく、地球で見慣れた普通の子供たち。
苦節一週間の努力が報われた瞬間でした。けれど……。
……ごめんなぁ。
少年少女が楽しげに遊んでいる小川。
実は私も、先ほど同じ小川の上流で水浴びをし、汗や汚れを洗い流していました。
そして……
そして、ついでに「小便」を垂れ流してしまっていたのです。
あぁ、なんてことでしょう。
私は……おじさんは……
風呂やプールなどに浸かると、どうにも催してしまう性分なのです!(サイテー)
水に浸かりながら致す生理現象は、すこぶる心地よいのです!!(超サイテー)
残念ですが子供たちは、もうすでに私の成分に浸食されてしまったでしょう。
ですが……ですが絶望するにはまだ早いです。
慟哭の嘆きを上げるのは早計です。安心してください。
その毒素は大自然の息吹――小川の水流によって薄まり、害はないはずです。
たぶん。
カップ麺のスープはお湯に溶けているからカロリーゼロ、という理屈と同じです。
たぶん。。。
しかし、カオスな現実に目を背け続けるわけにもいきません。
仕出かしてしまった過去をいくら悔いても、遡ることはできませんから。
ま、しかたないやね。めんごめんご(*'▽')
子供たちには心の中で謝罪を済ませたところで、気を取り直して今後どうするかを考える事にいたましょう。
このまま子供たちに接触して、村なり町に案内してもらうのが一番良いだろう。
……そう思ったものの、私は自分の身なりを思い返して愕然とした。
私は――パンイチだ。
俗に言う、パンツ一丁。
世の中には「パンツにネクタイだけ」という、ある意味で正統派(?)の紳士スタイルが存在する。
だが、私のそれは紳士に寄せるどころか、ただの下着姿にすぎない。
ブリーフタイプでもなければ、顔を隠すための女性下着マスクといった上級紳士専用の装備もない。
袖を引きちぎったシャツや、服の袖を巻き付けただけの即席靴を装備してはいるが、正当な衣服と呼べるものはトランクスタイプのパンツのみ。辛うじてボロリはしてないものの、身様によっては十分な紳士と言っても過言では無いだろう。
子供たちも水浴びをしているため半裸ではある。
だが、私の半裸とは意味が違う。
彼らは自らの意思で水に入り、岸辺には衣服がある。
水浴びが済めば着替えられる。
対して私は、一週間森を彷徨った果てのボロ雑巾のような半裸。
替えの装備など、そんな上等な物は存在しない。
そういえば、いつから私は衣服を「装備」と呼ぶようになったのだろう。
おそらく昔、「防御力+1」と書かれたTシャツを誇らしげに着ていた青年を見た時からかもしれない。懐かしい記憶だ。
『……仕方がない。子供たちの後をつけて、集落に侵入しよう』
私はそう結論づけた。
待ち焦がれた人間との邂逅に心は躍る。だが、直接接触はしない。
暗殺者――いや、ストーカーのように背後から忍び寄り、人里へと案内してもらおうと心を決めた。
……いいや待て。冷静に考えろ。
「半裸のおっさんが木陰から子供を尾行」――これ、どう見ても通報案件である。
もしここが地球だったら、私は今ごろ警察24時の特番に出演しているだろう。
ナレーション付きで。
「深夜、公園の茂みに潜む不審者。その正体は――パンイチ男!」
だが。
これが今の私が行動に移せる最適解。
待って冷静に考えたけど突っ走った。(知力が足りずに思考は回帰した)
変態じみた行動に聞こえるかもしれないが、これは列記とした処世術の一つ。
……と自分に言い聞かせながら、私は木陰に身を潜めた。
私は木陰に身を潜め、子供たちを見守っている。
繰り返して言うが、これは犯罪ではない。
見守っているのだ。
この世界には水辺を訪れるモンスターもいる。
楽しく水浴びをしている間にも、危険は潜んでいるからだ。
それにしても、子供たちの親は何をしているのだろう。
こうして私が陰から警護しているが、状況はあまりにも無防備だ。
もし私が本物だったら、あの子たちはすでに毒牙にかかっている。
年齢が二桁に届くか届かないかの幼い身であったとしても需要は多分にある。
地球では、そうした話が『薄い本』の世界に溢れている。
危険は常に身近にあるのだ。
少女はもちろん、少年の方にも需要があるだろう。
栗毛色の短い髪に、赤みを帯びた琥珀色の瞳。切れ長の目と整った鼻筋、幼さを残しつつも引き締まった体。
簡単に言えば、美少年だ。
腐った女子が見つけたらイチコロだ、一瞬で拉致されてもおかしくない。
一方、少女はというと――ヘーゼルアイとでも言うのだろうか。
若干青みがかった大きな瞳。肩より少し長いプラチナブロンドが光を受けて透き通るように輝く。
一言で表すなら、透明感すら感る神秘的な美少女。
見る人が見れば、思わずよだれを垂らして「へっへっへー、お嬢ちゃん。おじさんといい事しようぜー」とか言いそうなほど”美味しそう”に見えてしまうだろう。
もちろん、食事とは別の意味で。
そんな二人が、あられもない姿で水浴びを楽しんでいるのだ。
これはもう犯罪の匂いしかしない。
こんな危険な子供たちが無防備に遊んでいるなんて、本当に大人たちは何をしているのか。
小一時間ほど正座させて説教してやりたい気分だ。
……などと子供たちの警護を気取っているが、木陰から半裸で子供を見守る私こそが、一番の通報案件であるのは言うまでもない。
――おっと。
そんなことを考えているうちに、子供たちがついに動き出した。
どうやら帰宅するつもりらしい。
水辺に脱ぎ散らかした服を身にまとい、人前に出ても良い準備を始めている。
私も子供たちに合わせ、いそいそと移動の準備に取り掛かった。
とはいえ、身を隠していた木の上から降りるだけだが。
やっとだ。苦節一週間。
やっと人間が生活できる環境へ到達する事ができる。
私の心は逸った。
目標はただ一つ。『普通の服』を手に入れること。
よーし、やるぞー!
『普通の人』に俺はなる!!
……まてよ。普通の服って、どこで手に入るんだろうな。
ユニクロ? GU? それともしまむら?
異世界にユニクロがあるかどうかは知らないが、もしあったら私は迷わず駆け込むだろう。
「すみません、パンツ以外全部ください!」と。
今後の方針――いや、目標が定まったことで、私のやる気はうなぎ登りだ。
目標はただ一つ――“普通の服”を手に入れること!
買うお金も無い事をすっかり忘れてはいるが、次回、『兄、ユニクロへ』。
ご期待ください!(嘘)
ここまで読んでくれてありがとう!
私の近況は前回同様、眠てぇし目も痛い!です。
ゲームに時間を吸われすぎて、執筆時間がマイナスに突入しました。
「時間泥棒は誰だ!」と叫んだら、鏡の中に犯人がいました。
でも、その犯人が書いたものを誰かが読んでくれていると思うと、ちょっぴり救われます。
ども。
こんにちわ、そしてお久しぶり。天音樹です。
最近はAnno 1800のキャンペーンモード(ノーマル)で、日々赤字に追い込まれてながらやり直しに興じております。
それにしても。
民をランクアップさせてあげるのに、どんどん要望が強くなって望みを叶えないと暴動を起こすとか、あの世界の住民はどうなっているのやら。
サカナと作業着とシュナップ(芋酒)のみで、笑顔で楽しいと陽気に語るランク初期の民が一番可愛いです。収入にはならないけど。
あと次点ではランク最高の投資家のおっさん。
お金になる・・・いや。お金だから。
それでは・・・
この作品は不定期進行です。
次は何時になるか、予定は未定ですw
それでも、ふらっと立ち寄って「お、続き出てるじゃん」と思ってもらえたら嬉しいです。
次はどんな展開になるのか――構想は頭の中にあるのですが、何時・どんな文章が出来るのか、作者自身もまだ分かっていません。
けれど、一緒に笑ったりツッコミ入れてもらえたら本望です。
それでは・・・アディオ―――ス、アミーゴ!




