第七話 酷い神様でも美少女なら、全然許せてしまうのに。
「グラトニースライムに死神蜘蛛からの離脱ですか。
確定した未来が次々と更新されて、私ではもう彼の未来を認識できませんね。
どうしたものかな……」
「ふむ。危機感知に隠密、それに窮鼠のスキルも発現しているな。成長が早い。
お前が魔王候補として目を付けただけのことはある。
けれど、どうする?手に余るようなら私が強引に連れていくが?」
「ダメですよ、サトゥルヌス。あなたの担当は別にあるでしょう?
それに、彼に王体を与えたのは私です。ここまで強力な魔を引き寄せたのは想定外でしたが、最悪、私が接触を図ります。」
「お前がそう望むなら否とは言わんが……
人間界を安定させるために必要な絶対悪?とかいう者に、彼の者は成れるのかね?
ただ逃げ惑っているだけに見えるが……」
「大丈夫です。怠惰の魔王は、元々争いに向かない性質を持っていますから……」
草木も眠る丑三つ時。
木の上で眠る人影の遥か上空で交わされた声に、誰も気づくことはなかった——
私は、朝焼けがより美しく見える魔法色に染まる瞬間のマジックアワーに目覚めた。木に抱きつくような不自然な体勢で眠ったため、身体の節々が痛む。
それに、目も痛い。
徹夜明けや、よく眠れなかった朝には、目やにでカピカピになることがある。
突然の異世界転移で不安を感じ、眠りに落ちた後で涙を流していたのかもしれない。
痛む節々に耐えながら、一晩お世話になった木を降りると、顔を洗うために小川へ向かった。
「太史慈、おはようさん。よく眠れたかい?」
相棒に挨拶をしようと籠を見ると、太史慈の姿はもうどこにも見当たらなかった。
がっかりだよ。君も私を見放すのか。
唯一無二の相棒だと……私達の絆は鋼鉄の如く固いと言ってあげていたのに。
餌だって、そこら辺の雑草を適当に入れてあげているというのに。
一体、何が不満だと言うのか……。
辛い現実から目を背けるように遠い空に視線を逃がすと、薄明の空は暖かく輝いていた。消沈する私を励ますように——
——異世界転生は二日目の朝を迎えました。
唯一無二の相棒を立て続けに失う急展開の中で——おはようございます。
兄です。
現在の状況を軽く説明いたしますと、
まずは幸いにも暖かい陽気で助かっています。
これが真冬か、もしくは真夏かの極端な気候でしたら、私は当に永遠の眠りについている事でしょう。永遠と書いて「とわ」と読んでください。「えいえん」よりソッチの方が、なんとなくカッコイイですから。
ん?まてよ?
「永遠」と書いて「とこしえ」もイイナ。
悠久の眠りも少し捨てがたい。
ふーむ。。。
しかし……現実問題、正直言って装備が
「袖のないシャツ、トランクスタイプのパンツ、布の靴」だけなのは辛いです。
しかも森の中。
地球だったら虫刺されでのたうち回っているところだと思います。
けれど、さすがは異世界。
虫に刺された跡が一つもありません。
それとも……蚊や虻すらも、私を嫌っているのでしょうか。
いけませんね、太史慈を失ったことが精神にも影響しているようで、
本日はかなり弱気なスタートです。
SAN値がピンチです。
枝と草を編み合わせて作った籠が、想定以上に隙だらけだったようで、
早急に心の友を完全に拘束する堅固な檻を作成したいところです。
ですが、今は余計なことに手間をかけている余裕もありません。
無念に思いながら、不出来な籠を投げ捨てて小川に向かいました。
小川では、クトゥルフ系スライムに出会ってしまいましたが、
かなり「沈んでいく太陽の十倍も早く」走ったので、今日は大丈夫でしょう。
異世界に転移して混乱も隠せないでいたのに、あんなモンスターに出合わせるなんて、酷い神様もいるものです。
まぁ、酷い神様でも、某アニメの“這いよる混沌”ニャルラトホテプさんみたいな美少女なら、全然許せてしまうのですが……期待するだけ無駄でしょうね。
さ、気を取り直して今日は、この小川を下って美少女を探そうと思います。
……間違えました。人里を探そうと思います。
幸いなことに、小川にはクトゥ(クトゥルフ系スライム)も居ないし、瓢箪の果実も健在です。昨日は慌てていたので水も果実も、確保しませんでした。
おかげで眠るのにも渇きと空腹に苛まされました。
夜中に何度、太史慈のお世話になろうとした事か……。
それでもまぁ、一匹では腹の足しにもなりませんし昆虫食は気が引けます。
我ながらよく渇望に耐えたものだと感嘆しました。
本日は反省点を生かし果実、確保済みです。
小川と果実で喉の渇きと空腹を満たし、顔を洗ったついでにシャツで身体を拭きました。身体を拭いたシャツは濡れたまま着ていますが、体温と風がそのうち乾かしてくれるでしょう。
運良く、果実で空腹を補えましたが、小川沿いにいつまでも生っているとは限らないので、ベルト代わりに蔦のロープを腰に括り付け、枝ごと拝借した果実を絡めるようにぶら下げて、下流へと旅に出ました。
道中、最たるトラブルもなく、旅は順調に進みました。
そういえば前回、シミュレーション仮説という話を少ししました。
人類の技術が今よりもっと発展するとして、過去の歴史をシミュレーションできるようになったとすれば、そのシミュレーションの中で、また別のシミュレーションが作られる可能性があります。
つまり、無数のシミュレーションが存在する可能性があり、現在の私たちもそのシミュレーションの中にいる可能性が高いと論じた仮説です。
私が異世界と認識した、この世界も無数のシミュレーションの中にある一つの別世界なのだろうか。
私は、おもむろに自身の仮説の鋭さに驚嘆しました。
それと同時に、誇らしさが生まれました。
ドヤ顔(`・ω・´)
そのシミュレーション仮説の中には、多元宇宙論という仮説も含まれています。
地球のみならず、宇宙そのものがシミュレーションのひとつだという考え方です。
私たちの存在する現行宇宙は、「星の数が少ない宇宙」かもしれないので、地球以外の知的生命と出会えていない。
けれど多元宇宙には、より星が多い「賑わった宇宙」や、より整った星が多い「最適な宇宙」があるかもしれない。
そして、その多元宇宙の中には地球外文明を含め、活発に交流している可能性もある。
異世界と呼ばれる仮想世界も、本当にどこかに存在しているかもしれないのです。
そして、是が非でもケモミミ美少女たちとお友達になりたい。
火星人やクレイ系の美少女だったら、ちょっとご遠慮してしまうかもしれないが。
私たちが思い浮かべる宇宙人のイメージは、原型が小説に起源を持つとされています。
タコ型の火星人イメージはSF小説『宇宙戦争』から、グレイ型のイメージも西洋——特にアメリカのポップカルチャーに強く影響を受けて有名になったと言われているのです。
もう少しニャル子さんが世に広まるのが早ければ、宇宙人のイメージが美少女になっていた可能性もあったと思うと、非常に残念でなりません。
ともあれ、宇宙人を見つけるのであれば、現行宇宙の中から探し出すより、平行宇宙から発見される可能性の方が高いらしい。
ダークエネルギーと言う謎の力が生命の存在確率を引き上げるらしいのだけれど、知的生命誕生に適切なエネルギー密度は27%なのに対し、現行宇宙のエネルギー密度は23%しかない。
平行宇宙には、無限に宇宙人が存在する可能性があると思うと、胸がアッチアッチですね。
ただし、平行宇宙を先に見つける必要があるけど。
勿論、これは超極低確率の幸運が重なって生まれた私達人類が考えているからこその、極甘い仮説の上で論じている程度であって、多元宇宙は私達が考えるよりもずっと過酷な世界、例えば星すらも無い、熱源——原子すら無い宇宙ばかりの可能性も多分にある。
しかし、現行宇宙で邂逅出来ていないのも、私たちが地球の基準で探しているから出会えていないのであって、「惑星に依存していない知的生命」は、すでにいるかもしれない。
地球のような環境を維持できる宇宙コロニーが移動しながら存在している可能性もある。
例えば電波のように目に見えない状態の生命や、宇宙を見ている極大な存在、または原子レベルの極小な知的生命がいる事もあり得ない話ではない。
何もいないのに気配を感じたり、声が聞こえた気がするなどの第六感に位置する感覚は、もしかしたら「我々が感知できていない知的生命」からの、何らかのシグナルに無意識に反応しているから……なのかもしれない。
なんにしても私達が知る事のできる世界は、深い霧に覆われた大海原を航海している程度の物。
数十メートル先さえも見通す事が出来ない、陸地の見えない広大な海が続く無限の世界を彷徨っているだけでしかないのだ。
——私は……この異世界で……どのような知的生命に出会えるだろうか。。。
はぁ……
色々考えていたら、お腹が空いてきた。
そういえば能の活性化は、意外とカロリー消費が大きいらしいっす。
たとえば、将棋は体を激しく動かすスポーツではないものの、脳を非常に使うため、大量のカロリーを消費するらしいっす。
プロ棋士の中には、1日の対局で1kg、2日制の対局では2kgも体重が減少することがあるらしいっす。
これは私の考察ではなく、AI先生から聞いた話だから間違いない。
「あー腹減ったぁ。太史慈ー、おーぃ太史慈……
はっ!そうだった。太史慈はもう居ないんだった。」
※昆虫は、高たんぱく質で、身体に有用な脂肪酸、さらにビタミン、ミネラルも含有する。食用昆虫に共通した特徴といっても良いと言われている。
腹が減って、まず思い浮かべたのが相棒の太史慈だった。
だが、居ないのならばしかたがない。
幸いにも、ちらほらと果物の成る木が生えているし、朝採った分はもう食べてしまおう。
ずっと果物ではさすがに飽きてきたが、贅沢は言っていられない。
「あーぁ、肉まんとかオムライスとかハンバーグとか木に生ってねぇかな……」
私は熱々の肉まんを恋しく思い浮かべながら、瓢箪型の果実をほおばった。
ところで……みなさんは、肉まん・あんまんなどの蒸し系饅頭がお好きだろうか?
もしよく食べるのであれば、気をつけていただきたいことがある。
電子レンジで熱した『あんまん』は、時として武器となるのだ。
かぶりついた反対側から、強力に熱された『あん』が飛び出して火傷を負うケースが度々散見される。
情報源は私だ。
外側は冷えていたので油断したのが悪かった。
がぶっといって、トロッと手に落ちた。
不幸にも、かぶっといったところのガワが分厚い上に固くなっていて、噛み切れずに火傷の対応が遅れたこともあった。
手にトロッとやったのは初めてではなかったが、この時はとても後悔した。
痛いのは、今も昔もとても嫌なことだ。
水ぶくれができてキーボードを打つのも抵抗があった火傷は、手痛い記憶として私の脳裏に強く刻まれた。
私がトロッとやる時は大抵『あんまん』だったが、ピザや肉、カレーなどでもおそらく痛い目に遭うだろう。
電子レンジは中の『あん』を強烈に加熱することを認識して、ぜひ気をつけていただきたいと願う。
もしトロってしまった時は、すぐに水や氷で冷やすことをおすすめするよ。
水ぶくれになってしまって手遅れだと感じても、痛みは和らぐから。
さて……ずいぶん川を下ってきたが、まだ人里らしき場所には辿り着かない。
異世界の二日目は、平和に過ぎ去ろうとしていた。
太史慈のことを除けば……。
唯一無二の相棒が居なくても変わらんな……やはりバッタが相棒というのは無理があったか。次は食べやすく腹に溜まる相棒……いや、なんでもない。
早いところ、真なる相棒に邂逅したいところである。
……あと美少女も。
31 31 31 31。
作詞家さんの年齢かな?
とか思っていた事が私にもありました。
正解は「SAN値ピンチ」でした。発音の響きは似てますよね。
人の耳は、聞き取れなかった部分を勝手に補って知ってる言葉に補修する機能があるそうで、サンチの「サ」とピンチの「チ」から「サンジュ―イチ」と聞こえていたようです。
第二期のニャル子さんW オープニング主題歌、頭にこびり付いて脳内でずっとリフレインしてました。
歌詞間違って聴いてたけどw
それはそうと、実はワタクシ、クトゥルフ神話あまり知らないんですよね。
ニャルラトホテプ・・・ニャルラ・・・ニャル・・・何て?
って感じでした。いまだに良くはわかりませんが、キショイ系だと言う事だけは理解していますw
それでは・・・
この作品は不定期進行です。
次は何時になるか、予定は未定ですw
気楽に待って、軽く笑い飛ばしていただけたら幸いです。
ではでは・・・アディオ―――ス、アミーゴ!




