テル先生
最近、ルナの元気がない。
ライブ会場の下見の後だろうか。
それに、なんだかエリカもりょーちゃんも
なんとなくだが、会話の量が減った気がする。
『エリカ、ここなんだけど、、』
『あー、ちょっと今いそがしーんで。さーせん。』
エリカはプイと視線を逸らすとスタジオの外に出ていった。
何があったのだろう。
頭をかく。
練習になっていないのだ。
りょーちゃんは鏡の前には立っているが、
ポージングしながら時折ため息をつく。
『今日はこのくらいにしようか、、、、』
ルナがポツリと呟くように発言した。
そういう呟きを聞いて、
各自無言で片付けを始めた。
3人ともいなくなり、音がなくなったスタジオに1人佇む。
『なんだか、上手くいかない、、、、』
前もあったようなこの感じ。
動画を見る。
こういう時は推しの動画を見るに限る。
みんなで食べるはずだった、
手作りのサンドイッチ片手にスマホを開く。
ルナが話をしている。
ルナの唇、声、吐息。
踊っているルナも好き。
こういう話をしているだけのルナの仕草も好き。
何気なくコメントを見てみる。
・アバズレ
・エロ垢乙
完全な誹謗中傷だ。
動画配信サイトに連絡してコメントを消してもらおう。
気分が悪くなったので、別の動画を見る。
・アバズレ
・エロ垢乙
まただ。
同じようなコメント。
アカウントは、、、
ike
という名前だ。
このアカウントは実はだいぶ前から、瑠璃大学ダンス部にコメントをしている。
当初から悪質ではあったが、、
リアルイベントを控えているこの時期に
メンバーをヘタに刺激したくない。
『なんとか、アカウントを特定できないだろうか、、、』
そうこうしていると着信が入った。
『また、、、か、、はい、もしもし。ああ、わかりました。では、駅前のレンタルスペースで。』
さすがに院内の喫茶店は良くないだろう。
客を取ったとイチャモンつけられては叶わない。
『いらっしゃいませ。』
『まち、、あわせ、、です。』
喫茶店を見渡す。
控えめに手を振っている女の子がいた。
『こ、んにち、は。』
『先生、こんにちは。待ちくたびれちゃったよ。ねえ、昨日ね、、、』
そこからその女の子の話を2時間近く。
ただ聞く。
女の子は、時折スマホを開き、不敵な笑みを浮かべては素早く何かを入力していた。
『あ、もうこんな時間かあ。ちょっとお手洗い。』
彼女はスマホを置き、席を立つ。
スマホが見えた。
それは、私が見慣れている動画配信サイト。
アカウント名は、、、
ike
『やっばーい、スマホ忘れちゃった。』
彼女はスマホを持つ。
スマホをもとうとする腕には先週より増えたリストカットの跡が生々しく見えた。
会計を済ませる。
喫茶店を出たところで、彼女が札束を出してきた。
『はい、これ今日のカウンセリング料。』
『うん、ありがとう。じゃあね、朝倉さん。』
赤いアイシャドウの女の子は大きく手を振っていた。屈託のない笑顔で。
『なんて、、、仕事だ、、、』
私の頭の中は砂嵐だった。
何も見えない、何もわからない。
こうやってボッタクったカウンセリング料でプロデュースのお金にあてている。
でもそのプロデュースを邪魔しようとしている女の子から資金提供を受けている。
私は自分を、自分自身を呪った。
まただ。
こうやって私は踊りもしないくせに。
女の子を沼らせて。
でも、私は女の子が好きだ。
だけど沼らせてしまうくらいなら。
コミュ障を気取ればよかった。
『踊らない、ダンサーでもない私はとりあえずいつもチームをクラッシュしてしまう、百合趣味なんてな、、、』
こうなった時の予感は当たる。
それは次のミーティングで起きた。




