再始動
「なんで・・・そんな話を・・・・」
「ええ。なんででしょうね。ましてやお母さんが死んでしまった
病院でこんな話をするなんて。」
私はなんて言ったらいいかわからない。
だから
エリカが語るのを待っていた。
「母はいつでも優しい母でした。強い母でした。
私を愛してくれました。私がダンサーになるって言ったら
あなたならなれるわよと私を信じてくれた人でした。」
「うん。」
「私には母しかいませんでした。すべてだったと思います。
母が眠ってからずっと私の世界はモノクロでした。それでも
母が生きている。いつかまたきっと、ただいまって言ってくれて。
それで、今後は私が母にカレーをごちそうしてあげて。」
「うんうん。」
エリカの声が震えている。
「そして私、瑠璃大学ダンス部に入ったんだよって。それで
私が踊っているところを見せて。あなたならダンサーになれるよ。
私を一緒に全国に連れていってねって・・・そう言って・・・
くれるはずだった・・・」
「うん・・・うん。」
「だから、どうして。まだだったのに。母はまだまだだったのに。
何も悪くないのに。私はまだ・・・まだ・・・母に・・・」
「そうだね。」
「何も・・・・何もまだ返せていない。奇跡を願った。絶対また
母は目を覚ますって。そう思っていた。でも。かなわなかった。
母は・・・・ああ・・・」
テーブルにはまだ水すらも運ばれていないのに
エリカのところはもう水浸しで。
でもその水だけではまだ足りなくて。
もっともっとそこに注がれなければ、エリカは吐き出しきれていなくて。
「うわあああん!!おかああさああああん!!!」
そこにはいつものネットスラングを扱う擦れた
女の子ではなく、
もう二度と母と会うことできない、
この世でたった一人の肉親に会うことのできない強い強い
女の子がいた。
「さーせんす、ルナさん。」
「いやいいんだよ。頑張ったんだよ、エリカは。」
エリカの顔を一瞥する。
エリカはなぜ私をここに呼んだのか。
その一言だけ。
私が紡ぎだすべき言葉はそれだけだったのに。
何か今のエリカにはすべて刃物のように突き刺さってしまうような
気がして。
エリカの言葉に対して、共感を示すことしかできなかった。
そんな風にして私らが再会してかれこれ2時間経った。
「ルナさん。瑠璃大学ダンス部はもう終わったんですか?」
エリカから質問があった。
「うーん。その質問はいささか難しいな。部活としての体はなしていないのかもしれないけど、
結局大学生の部活の体ってなんだろうなあみたいな。でもね。
私としてはうんそうだな。新しい形で活動できればいいと思っているよ。」
「そーっすか。」
そこで再び言葉の凪が訪れた。
何を知りたくて質問したのか。
私から勧誘すべきなのか。
でもエリカは私を軽蔑しているのではないか。
「ルナさん。私のことをどう見ていようとどう思っていようと
それはルナさんの勝手です。だから、別にそれをどうしたいとかはありません。」
「え?」
「私はやはりダンサーにならなくてはならないと感じています。
母の夢、いや幼いころに母に伝えた夢こそなんとかしてかなえて、
そして名を残さねばならない。今それをできるのはルナさんの企画しかないかと
思っているところです。」
「それは・・・・」
「ええ。影井エリカ、ルナさんの動画チャンネル【ようこそ瑠璃大学ダンス部】の
メンバーにしていただきたく、本日はお願いしにまいった次第です。」
それは願ってもない提案。
私はエリカの手を握っていた。
そして・・・・
「頑張ろうね!」
それだけ伝えた。
なんとかメンバーは最低限そろった状況だ。
瑠璃大学ダンス部再始動だ。




