向き合うとき
母に会う。
眠りについてから10年以上。
いまだ眠る母になんて声をかければいいかわからない。
母にはよく会っている。
見舞いは1日たりとも欠かさない。
そのたびに何をどう声をかけていいかわからなくなっていった。
幸せだったころを思い出すと、私はどうしたらいいかわからない。
どうしたらいいかわからないのか。
そうではない。
母に話すことのできるような人生を私は送っていたのだろうか。
「・・・・さん」
「・・・・・」
「影井さん?」
「あ、はい。」
影井とは私のことだ。
「お母さまの容態ですが、あまりよくありません。おそらくここ数日が峠でしょう。」
母の容態が悪くなった。
この数日のうちに死ぬかもしれない。
その事実だけが私の心を容赦なく切り刻むのだ。
私は母の病室に泊まることにした。
夜。
月がきれいだ。
煌々と母の白んでいく顔を照らしていく。
母は寝息を立てている。
こんなに気持ちよさそうな顔で寝ているのに。
「・・・・。」
話したい事はいっぱいある。
だけど話をしたらどう思われるだろうか。
母が眠ってからのこと。
ダンスパブのこと。
ルナさんとりょーちゃんとの出会い。
それから・・・・
「おかあ・・・さん・・・・」
私は鼻の奥がつんとなった。
涙は流すまい。
母が悲しむ。
母が眠ってから私は・・・・
耐えてきたのだ。
それはこれからも変わらない。
お母さんとの記憶。
「お母さん。私ダンサーになる!!」
思い出す。
あの日に戻れたら。
ダンサーを目指すといった時の母はうれしそうな表情をしながら
涙ぐんでいた。
その時の母の感情を私は、置き去りにしてしまっているのではない
だろうか。
「感傷的になるとか。。。まじ乙っすね。。。」
携帯で動画を見る。
たまたま飛び込んできたのはルナさんとりょーちゃんのダンス動画だ。
「楽しそうっすね・・・」
そうこの二人は楽しそうだ。
私が初めて会った時の二人だ。
この2年は・・・二人は交わることはなかったのに。
こうやってダンス部が崩壊してまた私がときめいた頃の二人に戻っている。
「ずるいっすよ・・・・・」
ぽたぽたと携帯の画面は水滴で濡れていた。
私はそのことに気づかないようにしていた。
月が明るい。
私の涙は月明りに照らされて、なんだかきれいに見えた。




