デジタルタトゥ
ガラス張りのドアを開く。
そこを開けるとダンスミュージックが私の体を包んだ。
汗ばんではいるが、良い匂いのするダンサーのにおいと
ステップを踏むときゅっきゅっとなるきらびやかな空間が広がっていた。
ガラス張りの空間はドアを開いた私を、そのスタジオのオーディエンスにさらす。
できれば、見つからないようにそっと。
放っておいてほしかった。
周りの突き刺すような視線に耐えながら、私は更衣室で着替えをすすめる。
更衣室といっても1畳間の小さな空間。
その1畳間の壁が私を切り裂くような視線から守ってくれていた。
「よし・・・・・」
スカートとスポーツブラに薄いレースのカーディガンを身にまとい私は
戦場へと立った。
一瞬あたりは時間が止まったようだ。
ようだ、というのはベース音がよく効いているダンスミュージックが鳴り続けているから
実際には時間が止まっていないことを感じさせた。
私はいつも通りお気に入りの赤のカチューシャで前髪をあげて鏡の前に立ち、自分のピクチャーを
確認する。
「よくスタジオに来れるわね。」
「どんな神経をしているのかしら。」
「あれでしょ?逮捕者が出たっていう・・・・」
「結局、色物だったわね。瑠璃大学ダンス部とか」
SNSの誹謗中傷よりたちが悪い。
SNSならスクショできるのに、
言葉として発せられたそれは空気を振動させて私の鼓膜でふるえたあと、
宙に消えていく。
音は消えるのに、心に焼き付けられる熱はいつまでたっても消えてくれない。
(耐えねば・・・・・)
そう耐えなくてはならない。
1回転その場でスピンをしてみる。
キレは悪くない。
瑠璃大学ダンス部が色物か。
確かにキレイどころがそろっているし、衣装も露出が高い。
ましてやゲリライベントの時は性的な興奮を喚起させるようなものであった。
(私が・・・悪かったのかな)
ケイに伝えた言葉。
「瑠璃大学ダンス部の爪痕を残したい。」
そう確かに爪痕は残った。
最悪の形で。
私たちはデジタルタトゥーを残した。
名前と写真付きの部員名簿。
私たちは十字架を背負ったのだ。
いいところに就職したいから瑠璃大学ダンス部を目指す子も多かった。
なのに、真逆。
もういいところには就職できないだろう。
ましてや、就職できるのだろうか。
(身の振り方を考えないとな・・・・・)
瑠璃大学ダンス部は通例として、大学院までいき、OGとしてダンス部をしっかり育成し見届けたあと
修士で就職を目指すことが多い。
それが社会的なステータスであった。
それを、私らの代でつぶしたのだ。
それも私は部長の代に。
だから。
私はその十字架を背負って。
また瑠璃大学ダンス部を何とか復活させないといけない。
「やっぱりあなたは何もできないクズだ。」
その言葉を思い出す。
私はやはりあの人を超えることができないのか。
あの人に勝つことはできないのか。
こうやって行き場がないから虚勢を張ってダンスをしているしかないのだろうか。




