健全な部活にしたい
「け・・ケイさん・・・・」
ぼろ雑巾のようになったその女は私にしなだれかかってきた。
「いいかい。あれは、お前がやったことにするんだ。それを直談判するんだ。」
私の思考はどうかしているのかもしれない。
「そ・・・・そんなことしても・・・あ!!」
少しかわいがってやる。
もう抵抗できないくらいに。
「いいかい。あれは、お前がエリカに嫉妬してやったことにするんだ。そうすれば、もしかしたら。」
「あ・・・・ああ・・・・」
そうこいつは確実に豚箱いきだろう。
傷害罪だ。
いや、殺人未遂だ。
この前髪が長い女はここまでよく働いてくれた。
可愛がりさえすれば、なんでもする頭のねじが緩んでいるバカ女だ。
「そしたら・・・・」
「あん?」
「そしたら・・・・私だけを・・・見ていただけますか??」
気持ち悪い。
私に何度かかわいがられて、こき使われるだけの能無しが、私に愛されようなんて。
「ああ・・・・お前だけを見るよ。」
そう耳元にささやいた。
こいつはこれで終わりだ。
あの事故は人為的に引き起こされたもの。
それをりょーちゃんが知ることが大事なのだ。
今のままのりょーちゃんでは、立ち直れない。
りょーちゃんさえ立ち直ればなんとかなる。
ダンス部は今までそうやってきたのだから。
♦♦♦
白い天井は見飽きた。
どうやら、私は退院になるようだ。
「これから・・・・どうするかな。」
あんな高さから落ちたのだ。
どう転んだって、リハビリはしばらく必要だろう。
車いすが用意された。
ひどい体たらくだ。
伸びそうな部員を品定めして、きっかり教育してダンス部に貢献する。
このためにいたというのに。
品定めの目つきがやらしかったのだろうか。
ケイにあらぬことは言われて、エリカにも誤解されたままだ。
誤解か。
エリカの為にというのは極めて表面的な理由に過ぎなかった。
私はハブられている部員をサポートして、「やっぱりルナはダンスの天才だ。」と
言われたかっただけなのだろう。
「はあ・・・・これじゃ・・・・全く。」
エリカの誤解を解く以前にまず自分の体のメンテナンスとこの生活に順応していくのが、
最優先ですべきことになってしまった。
まったくそれだけじゃないのに。
また私が生きていく上で、枷になるものを背負ってしまった。
入院費はまあ、それなりにかかったみたいだが、部活で入っていた保険でなんとかなりそうだった。
さて、支払いを済ませて病院の外に出る。
エリカがいることを期待したが、いなかった。
かわりにいたのは、りょーちゃんだった。
「よ!りょーちゃん!」
「ルナ・・・・ルナ!!」
りょーちゃんは私に抱き着いてくる。
ふわっといい匂いがする。
たまらず抱きしめかえす。
「これからどうしようかね・・・・・こんな体になってしまってさ。」
「そのことなんだけど・・・・ルナ。あなたの命を狙って練習場に穴をあけた部員がいるの。」
「え・・・・・?」
「大スキャンダルよ。大学にはマスコミが押しかけてきて・・・あなたのもとにも直にマスコミが殺到すると思う。」
「それは困ったね。ただでさえ心も体もボロボロなのに。」
「そうだよね・・・・」
りょーちゃんは一層私を強く抱きしめてくれた。
「参ったな。家なんか帰ったら大変そうだ。」
「うん。だからね。しばらくここにいて。はい、鍵。あそこの車に乗って。」
りょーちゃんが指さす方を向くと、黒塗りの車いすのまま乗れるワゴンが1台。
「ごめんね。。まさか、ダンス部でこんな殺人未遂なんて・・・・・私はマスコミ対応に追われそう。」
「りょーちゃんも大変だな。」
「落ち着いたら連絡するわ。」
「ああ。ゆっくり待つことにするよ。」
ワゴンから出てきた男性に車に乗せられる。
窓越しにりょーちゃんに手をふる。
りょーちゃんは涙をボロボロ流しながら、こちらを見る。
合宿中止からいろいろとやることに追われていたのだろう。
目の下にはクマがあった。
眠ることができていないのだろう。
「出発します。」
運転手の男性にそう言われて視線を車の前方へとやる。
「・・・・ダンス部は膿を出さなきゃダメなんだろうなあ・・・・」
腐敗しきった空気を入れ替えるように。
自首したという部員は確かにケイの取り巻きではあったが、
どうだろうか。
個人的に恨みを買うようなことをした覚えはない。
「膿の本当端っこだけなんだろうな。根こそぎ取るのは今の形態だと・・・・難しいのかもしれないなあ・・・・。」
私はりょーちゃんにメールを送る。
これで膿は出し切れるだろうか。
またトカゲのしっぽ切りにならないだろうか。
願わくば、健やかなダンス部でいられますように。




