夢の終わり
ルナさんが床下に落っこちた。
床下はカビ対策で5メートルくらい空洞だという。
「誰か!!救急車を呼んで!!」
「担架を!!」
「ルナの両親は!?連絡をとって頂戴!!」
そこかしこで怒号が飛び交う。
私はなんだか・・・・・
夢を見ているようだった。
ルナさんは幸い、命には別条がなかった。
合宿は中止になり、部長ということでりょーちゃんが病院に同行した。
私は・・・・・。
合宿の片づけをしていた。
荷造りをして撤収。
風習になっている練習場の掃除をすることなく、
いそいそとバスに乗り込んだ。
バスは一番前の席だった。
緑豊かな坂道をゆらりゆらりとバスが下っていく。
「恩知らずね・・・」
「本当。誰のおかげでダンスできていたんだか・・・・」
そんなひそひそと私を揶揄する言葉がバスの後方から聞こえてきた。
(仕方ないじゃない・・・・)
そう。
私はこの緑豊かな大地からコンクリートだからの日常に戻ったとしても
たぶんルナさんの見舞いにはいかない。
どうせ、ルナさんは、私が見舞いにいったところで
私の体を思い出しながら自慰行為のおかずにするだけだ。
(汚らわしい・・・・・)
どうして人間には性欲という吐いても吐いても吐ききれない、醜い欲があるのだろうか。
睡眠も食欲も人間の営みには必要なことに対して、
性欲というのは何をうむというのだろうか。
活力も出ない、ただただ一時的な快楽の為の欲望など、
なぜそんな無駄なものは作られたのだろうか。
その欲望は時に・・・・。
人を破滅へと導いてしまうのだ。
ケイさんとルナさんのやり取りを見ていて、ルナさんは私をそばに置くのは
そういうことなのだろうとわかってしまった。
だから、ちょうどよかった。
合宿が終わり、あとはどうせ泊りではない大学での日々の部活をこなせば、
イベントの一軍として出演はかなったのだ。
ケイさんの飲み物の嫌がらせや、取り巻きの服を汚した言いがかりなどは
あのどこへも逃げることのできない閉鎖空間における嫌悪刺激に他ならない。
大学の部活でなら、
練習が終わればどうせ大学生としてリフレッシュした生活を送ることができるし、
本当に嫌なら練習を休むことができるのだ。
イベントにさえ出てしまえば、あとは何もやり残したことはない。
瑠璃市という地域のイベントに出たというだけでも就職活動や今後の進路では大きく箔が
つくだろうから。
それさえ手に入れてしまえば・・・・
何も・・・・・・
♦♦♦
合宿が中止になり、1週間がたった。
当然、部活も少しお休みになり、私は暇を持て余していた。
自主練習をするにもどうせケイさんの取り巻きがいるのだからと気乗りしなかった。
とりあえず、家にいても無駄に冷房代がかかってしまうからと
読みたい本はないが、図書館に入り浸っていた。
(今日も暇だな・・・・・)
勤勉そうな大学生が勉強に励んでいる。
もしくは文化部らしき部活が打ち合わせをしている。
(そうか・・・夏休みが終わったら文化祭だもんな)
文化祭か。
おととしはあんなことがあったし、去年は合宿に参加しなかったからなんとなく文化祭だけ
参加するのもどうかと思ってずっと家にいた。
ダンス部は喫茶店をやっている。
近くの大学から男子学生が一目瑠璃大学のダンス部の学生を見にくることが多いのだ。
ナンパ目的もいたが、まあその辺は部活に迷惑をかけないなら・・・程度で見逃していた。
ただ、近年はリベンジポルノなるもので退部を余儀なくされた部員もいた。
そのくらい瑠璃大学のダンス部のスキャンダルに対する制裁は厳しかった。
(私の体があんなにされたのにね・・・・)
そう部内のものは大概もみ消すのだ。
そういう組織だ。
朝からきて、昼は一度学食でご飯を食べてまた夕方まで図書館にこもる。
そんなルーティンだった。
本は適当なものを読み漁ってしまい、飽きていた。
(ん・・・・?なんだろ・・・?)
私は1冊のアルバムらしきものを見つけた。
「瑠璃市舞踊の歴史・・・・・何これ・・・・?」
そんなときであった。
ピロン!!
携帯が鳴る。
「ええと・・・・ああ、ダンス部集合ね。」
アルバムを開くことなく図書館を出た。
どうせしばらく暇なのだから、また来た時に見ようと思う。
♦♦♦
部室にはりょーちゃんとその取り巻きとそれ以外の部員すべてがそろっていて、
私は一番最後だった。
「乙っす。」
そう言って、空いている椅子に座った。
ネットスラングの会話は人いらいらさせるのか、ケイさんがこちらをじろりと見ていた。
「え・・・・と。みんなには残念なお知らせがあるわ。」
りょーちゃんが咳ばらいして、気まずい空気を一掃する。
ただし、いつものりょーちゃんの覇気はない。
泣きそうな顔をしている。
申し訳なさを前面に出しながらただし涙だけは見せまいと。
その震えている声色からそう察した。
りょーちゃんはつばを飲み込み少し震えていた。
何かを耐えるように、息を少し吐いていた。
「今回の事故を受けて、イベントの参加自粛を大学から要請されました。これにより、
瑠璃市から受けたお話は瑠璃体育大学の舞踊科にお願いすることになりました。」
夢は終わった。




