私の時間
「はい!じゃあ今日はここまで!!」
りょーちゃんは相変わらず現場監督もやりながら企画を練っていた。
部員は全員は生き絶え絶えである。
そのくらいハードな練習なのだ。
朝の10キロマラソンに始まり、筋トレに、2時間の踊り込みだ。
ダンス部なんてのは名前やイメージだけが華やかで、実態はばりばりの体育系だ。
それどころか瑠璃大学のダンス部に関して言うと、ブラック部活の分類に入ると思う。
「では、1時間休憩のち、食堂で振り付けの打ち合わせを行う。1軍は全員参加で2軍は明日、1軍が練習をしっかりできるよう
フロアの整備に取り掛かること。」
この指示を出したのが夜中の12時である。
どこまで寝かさないつもりなのだろう。
もちろん、私はそれを覚悟してきた。
だが、このりょーちゃんのブラックな運営を知らずに来た新人はこの合宿でやめることが多い。
りょーちゃんを憐れむような眼で見ていると
こちらに視線を送ってきた。
しかしそれも0コンマ秒のこと。
すぐに視線は外された。
嫌われたかな。
「それと、明日の起床は4時。1年生はそれまでに洗濯を終えること!」
本当に寝かさない合宿だ。
会社であれば、労働基準法違反ですぐに駆け込んでやるのに。
りょーちゃんは今年は特に気合の入れ方が半端ないのだ。
「なんで・・・そんなに生き急いでんだか・・・・」
まあ、なんとなくその理由は知っているのだが。
それを語るのも野暮ってもんだろうな。
きびきびと指示を出していくりょーちゃんを目で追う。
「るーなさん!!」
「ああ。エリカか。」
「ああもう、疲れたっす。まじ、りょーちゃんのメニューというかスケジュールはガクブルっすわ。
ワクテカで臨んだ1年生はまじ乙って感じですけど。」
エリカは心なしか表情がいい。
それもそのはず。
私と常にいるから、いやがらせを受けることなく、ダンスにまい進できているのだ。
「でもね、ルナさん。あーしは楽しいんすよ。2年前に比べれば。睡眠不足くらいなんてことないんす。」
「そうだね。それはよかった。」
ふっと視線をエリカから外してみる。
「ルナさん?」
エリカは少しふくれっ面でこちらに覗き込んできた。
ちらりと視界に入る、エリカの見事な双丘。
汗がむわっと匂ってくるが、それもまた深夜のこの奇妙なテンションと相まって
頭がどうにかなりそうだった。
「ああ。。そういや、エリカはフロ入ったのか?」
「あーしは朝風呂派っすから。まあ、でもルナさんが入るってなら別にやぶさかではないですぜ。」
「うむー。じゃあ入る?」
「キタコレ!!入りましょう!!いいんすよね、合宿のふろ場って。やっぱりょーちゃんが金弾んでるから
源泉かけ流しのひのき風呂っすからね。」
さて。
いろいろとエリカと話しこんでいるうちに時間は1時をまわってしまった。
♦♦♦
ふろ場には私たちの他に数人いる。
エリカより先にフロにはいり、かけ湯をして浴槽に入る。
「ふわああ・・・・生き返るわ。」
もくもくと上がる湯気をかき分けてエリカが入ってきた。
エリカのプロポーションは湯気で少し見えづらさはあるものの、非常に魅惑的なものだ。
しなやかさと艶やかさが共存しているような、女でも見入ってしまうような体つきに
顔は清楚系なのだが、性格はネットスラングを駆使する、オタク女子なのだ。
ギャップにやられない奴はいない。
ただそのオタクの部分はずっとかくしてきた。
男に媚びるためなのか、自分をさらけ出す人間がいなかったからなのかわからない。
エリカはお湯につかる。
「はあ・・・・今年の合宿はなんだかんだ、ルナさんがいるから楽しくできてます。」
「そうかい。」
「練習はきついですけど。。。。まあ、でも1軍に選ばれましたし、、なんとかやりきらないとっすね。」
エリカは鼻歌を歌う。
他の部員は浴槽に入りながら、寝かけていたり、放心状態のものが多い中、ご機嫌なのだ。
エリカのポテンシャルと体力には頭があがらない。
「こんな無理ができるのも学生時代のうちですからね、、」
「そうだな。」
フロを見わたす。
浴槽がある部分は半分露天風呂のような形で月明りがよく見える。
この月明りを堪能するのもつかの間、また明日からきついメニューとスケジュールが待っている。
こんなにきついメニューをこなしてイベントを成功させても何も残らないというのに。
でも、私が今できて、このささやかな時間を楽しむにはこれくらい濃い時間ないとならないのだ。
「ルナさん!あがったらアイス食べましょうよ!!食堂で出してくれるみたいですよ!」
「おおそれはありがたいな。」
私は思う。
いつの日かこんな苦しい日々が報われる日が来るのだと。
ただ、どうだろうか。
そんなに時間は残されているのだろうか。
私はもっと幕引きまでの時間を巻いて巻いての方がいいのではないだろうか。
「ルナさん!先いってますね。」
こんなことでいいのだろうか。
「エリカ、待ってよーーー!」
私はそんな葛藤をしながら明日もダンス部の活動に没頭するのだろう。
それが私のダンスだから。




