表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
童話とか寓話とか絵本風の短編集  作者: 如月ふたば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/9

たからもの

 ある山奥にある小さな掘っ立て小屋の中には、横たわった男と彼の横に座る羽衣を纏う女。

 そして男の枕元にあるのは、大人の顔よりも少し大きい姿の雪だるま。


 男の顔を覗き込むように見ていた女。

 彼女は彼の開いたままの目を閉じさせるように、男の顔を覆いました。


「お雪さん」

 少年のような声が女に語りかけます。

「はちべいは死んだの?」


「そうじゃな、玉」

 お雪さんと呼ばれた女は「玉」と声を掛けた。

 枕元にある雪だるまである玉にお雪は潤んだ瞳を一瞬向けました。


 玉はお雪にまた聞きます。

「ボクたち二人になっちゃったの?」


「そうじゃな」

 玉に返事をしたお雪。

 はちちべいの顔に置かれたままの白くほっそりとした彼女の手に、ぽつりと雫が落ちたよう。

 雫らしきものはキラリと瞬き、小さな光屑が舞い散りました。


 お雪は口の中で何か告げると、はちべいは着物ごと、どこかへと消えてしまったのです。


「お雪さん」玉は言いました。

「なんじゃ」

「ううん、休もうよボクたちも」

「そうじゃな、もうすぐ夏じゃ」


 はちべいが横たわっていた布団にお雪は横にます。

 すると玉は枕元からお雪の首元へ移動。

「ボクが溶けないようにしてあげるね。だってボクがいなくなったらお雪さんひとちぼっちじゃん」

 玉の声を全て聞き終わらないうちに、お雪は深い眠りにつきました。


 閉じた彼女の目から、また零れた何かがキラリと瞬きました。



 お雪が目を覚ましました。

 扉を開け家を出ようとすると、いつの間にか目を覚ましていた玉が声を掛けます。

「おつとめ?」

「そうじゃ」

「いってらっしゃい」

 元気な声で玉は送り出しました。


 その冬は、例年よりもずっと激しく厳しい雪が降り続けたといいます。



 そして冬が終わり、春を家の中で過ごし夏は二人で布団に入り休みました。

 世間の陽が短くなってきた頃に、お雪は目を覚まします。

 首元に居た玉を撫で「おはよう」と伝えました。


「おつとめ?」

「そうじゃ」

 彼女がお勤めに出かけると、世界は銀色へ。

 そんな年月をお雪と玉は、人間では数えきれないほど過ごしていったのです。



「最近の冬はなんだか暖かいのう。雪も少ないし」

 山のふもとの老人が噂し始めて数年。

 また「おつとめ」へと行く冬がやってまいりました。


「なんだかお雪さんの衣の端、汚れていってるね」

「そんなことはないじゃろう」

 そのように答えたお雪。本当は気付いていました。

 自分の着ている羽衣がゆっくりと、時間をかけて焦げたかのように黒く散り散りになっていることを。


 玉はお雪が嘘を付くなどと思いもしません。

「そっか、ボクの勘違いか」

「そうじゃ」

 答えたお雪は扉に向かいします。


「おつとめ?」

「そうじゃ」

 はちべいが旅立った冬に比べれば、本当に雪は少なく勢いもありませでした。


「お帰り、お雪さん。ねぇボク少しずつ小さくなってない?」

「そんなことはないじゃろう」

「そっか」

「そうじゃ」

 本当はお雪は知っていました。

 玉がだんだん小さくなっていることを。


 このまままた時間が過ぎていきます。

 また二人が目を覚ますと、お雪は息を大きく吸いました。


「おつとめ?」

「そうじゃ」

「行ってらっしゃい」送り出す玉の声は元気もなく小さくなっています。


 お雪が家に帰ると彼女の白く小さな手に乗ってしまう程になってしまった雪だるま。

 玉はお雪に言いました。

「ボクね、実は最近男の人が出てくる夢をよく見るんだ」

「さようか」

「その男の人はね、お雪さんにはちべいって呼ばれてるの」

「さようか」

「はちべいっていう男の人がね雪を丸めて、ボクを作ってくれているの」

「さようか」

 玉の話を聞きお雪の白い顔は少しだけ赤らみ、表情が柔らかくなりました。


「もうボクたちも休もうよ」

「そうじゃな」

 小さな声で答えたお雪は目を閉じました。

 彼女の唇は少しだけ微笑んでいるようでした。


 次の冬お雪さん似た女性が、また真っ白い美しい羽衣に身を包み家へとやってきました。

 

 家の中には水たまりが。

 水たまりにはひとひらの黒く焦げたような端切れが浮かんでおりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ