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EPISODE 4 単眼の悪魔

第四話です。この試験編におけるボス戦となります。

 反省点だ。考えが甘かった。

 家屋の中にも悪魔はいる。それならあえて死角が多く見通しのききづらい室内に入る必要性は薄い。逆に言えばさっきのマイラのように、見通しが良ければ誰かが不意を突かれても他の誰かがサポートに回れる。

 そう考えたレックス一行は屋内を移動するのをやめ、道の開けた通りを行くこととした。

「そういえばレックス、さっきのは結局本当に手榴弾だったわけ?」

「いや。形は似てるけどこれは爆弾じゃない。閃光弾だ、表面に書いてある」

「閃光弾?なーんだ爆発しないのね。つまんないの」

「リ、リンさんは爆発する方がよかったんですか?」

「あったり前じゃない!悪魔がいっぱいいるとこにポイってぶん投げて、まとめて吹き飛ばしてやりたかったのに!」

「危うく俺たちが吹き飛ぶとこだったけどな……」

 レックスは一つため息をつく。

 その時、複数の影が一行の頭上に飛びかかってきた。悪魔たちだ。

「グギャアアアアアアゥッ!!」

「……!レックスさん!上!」

「わかってる!」

 レックスの剣が降りてきた一体の悪魔の喉元を斬り払う。悪魔の身体が塵となって消える。

 だが悪魔は複数だ。レックスはすぐに次の標的に狙いを定める。

「ガアアアアアッ!!」 

 その時、リンの下には二体の悪魔が襲来した。大きな腕を振り上げた二つの拳が一斉にリンへ襲いかかる。

 ガイィンッ!!

 リンの持つ剣とぶつかり合い火花を散らす。

「リンッ!」

「なんのぉ……これしきよっ!!おりゃあっ!!」

 レックスが助けに入る間もなく、リンは剣を強く振り上げて悪魔たちを払い除けた。

 ダダァンッ!!

 怯んだ一瞬の隙に、マイラの放つ銃弾が二発悪魔の眉間を撃ち抜く。

「……ふぅ。危なかったですけど、これで――」

「マイラッ!うしろ!」

 ダンッ!!

 リンの叫ぶのとともに、マイラの背後の悪魔をレックスは撃ち抜いた。

「これで全部だな。皆ケガとかないか?」

「はい、僕は大丈夫です。その、助けてくれてありがとうございます!」

 マイラは真っ直ぐレックスの顔を見てぺこりとお辞儀する。

「やだ……!今の私たち、結構良いチームワークだったんじゃない!?」

「確かにスムーズだったかもな。一人じゃ間違いなくキツかった」

「僕たち、きっとこの試験の中で一番良いチームですよ!間違いないです!」

 一行はお互いの顔を見合う。これまでより互いに互いが頼もしく見えてくる。

「よーーっし!!ここにいる悪魔なんかぜんぶやっつけて、私らみんな合格してやるわよ!!さぁ行くわよっ!!」

 すっかり浮かれた様子のリンが先頭に立ち、レックスとマイラを指揮する。

 二人は一瞬顔を見合わせた後、軽く笑って勇敢な少女の背中に追従することとした。



 リンの先導のもと、一行は通りをずんずんと突き進む。途中途中で何度か悪魔に出くわしたが、その度に見事な連携でものともせずに蹴散らしていった。

「よし。にしても、慣れたもんだな」

「ふふん!私らにかかればヨユーね!」

 更にずいずいと突き進む。歩いているうち、やがて一行は悪魔にめっきり襲われなくなった。

「なんだか……悪魔が出てこなくなりましたね」

「トーゼンよマイラくん。どうしてか分かる?」

「ええっ、どうしてですか?」

 純粋に不思議がるマイラにリンは得意気に言った。

「そんなの一つしかないでしょ!サイキョーな私たちに恐れをなしたのよ!私らには襲いかかっても敵わないんだって、ヤツらも学習したんだわ!」

「な、なるほど!そういうことだったんですねっ!」

 二人してキャハハと笑い声をあげる。

「確かに全然出くわさなくなったな。本当に恐れをなしてたらいいんだが」

「なによレックス!あんた疑ってるってわけ!」

「そりゃ疑いもするだろ。どれだけ戦ってもひっきりなしに出てきた奴らが一斉にナリを潜めたんだ。こういう時は何かあるって決まってる。少なくともルー爺ならそう言う」

「誰なのよそのルー爺っ――」

「あ、あの。あそこにいるのって何ですかね?」

 マイラが指を指した方向を二人は一斉に向く。

 通りの向こうは、霧みたいな不自然なモヤが立ち込めている。こんなのは今までなかった。そのモヤのせいで先をよく見通せないが、何やら小さな人影が見える。俺たちよりも更に一回り小さな――幼い子どものような人影が。 

「子ども、ですかね?同じ受験者でしょうか?」

「あんな小さい子が来るなんて、命知らずもいいとこね。それか迷子かしら?どっちにせよ、私らで助けてあげましょ!」

「お、おい!リン!」

 レックスの制止を気にとめずリンは人影の方へ歩いていく。

「さぁ坊ちゃん!このリンお姉ちゃんが来たからにはもう大丈――」

 その時、立ち込めていたモヤが一気に晴れた。

 シュバァンッ!!

 刹那、リンの全身が切り裂かれ血飛沫が迸る。

「……!?リンッ!!」

 レックスが助けに入るのと同時にマイラの弾丸が三つ飛ぶ。ガインガインと金属音が響きそれは銃弾を弾くが、リンの身体を回収し退く一瞬の隙が生まれる。

「リン!大丈夫か!?」

「痛ったた……いったい何が――」

 ギャギャァンッ!!

 リンが言葉を紡ぐ間もなく、劈くような鋭い金属音が鳴り響き、遠方のマイラが立っていた地面ごと無惨に切り刻まれた。

「え……?」

「マイラァ!!」

 何が起きている。銃撃を得意とするマイラはあれとは距離を置いていたはずだ。何か別の要因が?

 レックスは反射的に人影の方へ向き直る。その悪魔の異様な姿に一瞬慄いた。

 背丈は小さな子どものようだが、人間より遥かに大きな頭部を持ち、顔の中心に巨大な単眼が据えられている。頭頂部ごと変形したように二本の角がいびつに生え、細腕の先には小柄な身体には不釣り合いなほど巨大な手、そして爪。だらりと垂れた腕から伸びる爪は半ばほどから地面に接触している。擦るような金属音はあれが原因だったのか。

 ギャギャンッ!!

 突如、斬撃が地を走りレックスを切り裂く。まずい。何をされているか分からない。今の俺では明らかに敵わない格上の敵だ。

 想定していない、命が脅かされるような強敵と出くわした時に、ルー爺から教えられた対処法はひとつだけ。

『逃げろ』

 レックスはちらと横たわるリンとマイラの姿を見る。傷ついた彼らを両腕に抱え、得体の知れない攻撃を繰り出す奴から逃げられるイメージが浮かばない。

 なら、どうする?置いていくか?

『逃げろ。脇目も振らず、ただ己の命のために』

「……ごめん、ルー爺。それは無理だ」

 所詮今さっき会ったばかりの仲。しかしともに力を合わせ敵を退け、ともに笑い合った仲間を見捨てる勇気を自分は持ち合わせていない。レックスはそう判断した。

 レックスは立ち上がり、真っ直ぐ目の前の悪魔を見た。

「来い悪魔やろう!!俺が相手だッ!!」

 ギャリャアァッ!!

 叫びに呼応するように、金属音を伴う斬撃が迸る。出どころの分からない、不可視かつ不可避の斬撃。しかしそれを放つ直前、レックスの目は確かに悪魔の微細な爪の動きを捉えていた。

 やはり爪による攻撃。そして恐らく予備動作がある。何らかのやり方で遠くまで爪の引っかきを飛ばしている感じだと見た。

 ならば逆に、と相手の動きを探るようにレックスは悪魔と間合いを詰め、剣を振るう。

 ズバンッ!!

 予想と反して、悪魔はすんなりと斬られ血を流した。表面は硬く薄皮を切った程度だが、ダメージは通っているはずだ。

「……!」

 刹那、レックスは急いで後方に飛び退き悪魔と距離をとる。例の「予備動作」が視界の端で見えたのだ。あんな近距離で攻撃を喰らったなら、と考えるだけで恐ろしい。

 距離をとっても、悪魔はほとんどその場を動こうとしない。ただその巨大な単眼でじっとこちらを見つめるばかりである。爪が大きすぎるばかりに、動くのには向いてないのだろうか。

「ん……レックス……?ゴホッ……」

 ふと声がしたかと思うと、側で横たわっていた血まみれのリンが目を覚まし、身体を起こした。

「リン!傷が深い、まだ起きちゃ駄目だ」

「ううん、私は大丈夫。見た目よりひどくないから。それよりマイラ、マイラは大丈夫なの!?」

 マイラの方に目をやる。こちらを見つめ、身体を少し動かしたりはしているが、リン同様傷がひどく起き上がれそうにない。

「マイラ!」

 ギャリィンッ!!

 マイラとレックスらの間を分かつように悪魔の斬撃が走る。地面を裂く轟音が響く。

「カハッ……ハァ……僕は……いいですから……二人だけでも、逃げて……」

「そ、そんなことできる訳ないじゃない!!」

「なら……どうするんです……!ここで全滅するよりは……!」

 マイラの言う通りだ。ここで全員やられるくらいなら、一人でも二人でも逃げられた方が良いに決まってる。

 だが、レックスはもう決めていた。誰も見捨てない。置き去りになどしないと。

「リン、身体の調子は?動けそうか」

「大丈夫、結構回復してきたけど……まさか、マイラを置いて逃げるなんて言わ――」

「戦えるか?」

 レックスはリンの目を真っ直ぐ見て問いかける。

 真摯な思いにリンも呼応する。

「……当たり前よ。その感じ、何か考えがあるのね?とことん付き合わせてもらうわ!」

「まあな。あんまり期待してもらっても困るが、正直今はこうするしかない」

 レックスは簡潔な策の内容をリンに耳打ちする。

「二人とも……?一体何を……」

「頼んだぞリン!」

「まっかせなさいっ!」

 掛け声とともに、リンは単独で悪魔のもとへ切り込みに走った。

 ギイィンッ!!

 力いっぱい振り下ろした剣が奴の爪に当たり、耳の痛くなる音が響く。

「はああああぁぁぁぁっ!!」

 それでもリンの猛攻は続く。力強い攻めに悪魔も攻撃の手が鈍り始める。

「やっぱり!レックスの言った通り、見かけの割に近接戦は苦手なようねっ!」

 悪魔が攻撃の体勢に入っても、リンは距離を取ることなく剣を振り続ける。一つは相手の間合いに持ち込まず自分の土俵で戦うため。一つは手負いのマイラに悪魔の意識を向けないため。

 そうしているうち、やがて。

 ダダンッ!!

 パリンパリィンッ!!

 どこからともなく飛来した弾丸が二発、通りの両脇の街灯を破壊した。光源がなくなり周囲が暗くなる。レックスからリンへの合図だ。

「来たわねぇ!喰らいなさいっ!!」

 ビカァァンッ!!

 暗くなった通りに稲光の如く閃光が迸る。リンの懐から取り出した黒い円筒――閃光弾の光だ。それをかの悪魔の巨大な単眼の目の前で発動させた。

 悪魔が目を抑えてよろめく。好機だ。

 刹那、壁を蹴り路地裏から飛び出した白髪の影が――レックスが、銀の剣を大きく振りかぶって悪魔の背後に躍り出た。

 ――――不意をとった。決める。この一撃で

 レックスは強く、今までやったことがないくらい力強く、悪魔の首めがけて剣を振るった。

 パキイィンッ

 聞き馴染みのない音が周囲に響く。大した手応えのないまま、レックスの右腕が空を切る。

 薄暗闇の中、最後に見たのは、視界を覆う吸い込まれそうなほど大きな目玉と、鮮やかな紅色ばかりだった。

 バシャアァッ!!

あっちゃあ、ですね。レックス君はどうなってしまったのでしょうか。五話を乞うご期待。

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