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EPISODE 3 悪魔狩りの協会

第三話です。ここにきてキャラが増えます。どうぞよろしくお願いします。

「悪魔狩りの……協会」

「こっちだ」

 ルー爺はいそいそと教会の中に入っていく。説明する気がないというよりは、湧き出る疑問すべてに回答し得るだけの時間がないという感じだ。

 ギィィ

 暖かな木の扉を開くと、中も想像通りの整然とした教会だった。横長の椅子が左右5列分ほど並び、中央には聖十字が祀られている。奥に立っていたシスターがこちらに気づいた。

「こんばんは。礼拝ですか、告解ですか、それとも――」

『暗き霊魂どもに血の裁き、あるいは報いを』

 間髪入れずルー爺は奇妙な文言を呟いた。

「――そちらの方、お一人で?」

「ああ。今から入れるか」

「ええ。こちらの扉から、どうぞ」

 側に掲げてあった聖母子画をシスターが押すと、音もなくくるりと回転してその先の通路を顕にした。そして俺に先に進むよう促す。

「武器の貸出は行いますか」

「不要だ。既に持ち合わせがある」

「承知しました。では、ご健闘をお祈りしております」

 シスターが両手を組んで俺に祈る仕草をとる。俺はルー爺と離れ、今しがた開いた扉に歩いていく。

「レックス」ルー爺が呼び止めた。

「すまない、突然のことできっと困惑しているだろう。だが今は、すべて受け入れて欲しい。きっとこれが最後になる筈だ」

 ルー爺は少し咽んだように声を嗄らした後、真っ直ぐに俺の目を見つめた。

「生きろ。強く、立ち塞がるものすべて喰らい尽くして。そうしていればきっと、いつかきっと、君のお父さんも君を迎えに来てくれるはずだ」

 ではまた。ささやかなハンドサインとともに言い残し、ルー爺は教会の外に出ていった。何となく、何となくだけど、たぶんもう会えないんだろうなと思った。

 ルー爺の出ていった扉が閉まるのを見送り、俺はシスターの促す通り通路の先へ入っていった。


 

「そのまま先へお進みください。では」

 淡々と言い残し、シスターは例の聖母子画の回転扉を閉じた。ろくに聞くことも聞けずに、仕方なしに俺は先へ進む。

 通路はすぐに下り階段を迎え、地下へ地下へと伸びていく。窓は無くとも、天井掛けのランタンが視界を保っていた。それでも少し薄暗い程度だろうが、俺は夜目が利いた。

 カツカツ……

 石造りの地下階段を降りながら、一人思案することがあった。この先に待つものが何なのか。俺が入ろうとする『悪魔狩りの協会』とはどんな組織なのか。……そして、俺をあの街から連れ出す依頼をした『ある男』とは何者なのか。何が目的なのか……いや、それ以前に『あの街』だろう。

 2ヶ月もの間ルー爺と旅をし、色んな街を見た。大小含めて10は巡った。

 だけどその一つだって暗闇に包まれた街なんてなかった。朝を迎えればどこも燦々と照りつける太陽が光をもたらした。皆それが当然のように振舞っていたし、俺もそれを当然だと受け入れるようになった。

 だからこそあの街……あの街のことがよく分からずにいる。分からない、俺は2ヶ月の旅でしかこの世界のことを学べていないから、俺の知らない自然災害や歴史的事件事故がある可能性だってある。それでも……それでも夜になると、ふと頭を過ぎってしまうことがある。

「俺は……何者だ?」

 ダンッ!と大きく足を床にぶつける音で俺はハッとした。階段が終わっていたのだ。降りるつもりで運んだ足で床を強く蹴りつけてしまった。

 階段を降りた先に、無機質な扉。これを開く。

 その先の空間は今までとは少し毛色を変えていた。いつ出来たともしれない古びた石造りの通路から、暗茶色の木材を基調とした、質素だが優美な印象を感じさせる建築へと変わっている。恐らくは地下で別の建物と繋がったのだろう。

 空間は広く、辺りには今自分が入ってきたのと似たような扉がいくつかあった。自分が通ってきたのがここに至る唯一の道ではないらしいことを俺は予感する。

 道なりに進んだ先にはまた扉。そこには張り紙があった。

 


 ――悪魔狩りの協会入会試験 本試験会場――


 

 ギィィ

 扉を開いた先には、信じ難い光景が広がっていた。

 街だ。ついさっきルー爺と一緒に――恐らくこの真上に位置するであろう王都オルヴィスの街並みが精巧に再現された空間がそこにはあった。さすがに街全域では無いだろうが、それでも広大な空間なのは見てとれる。

 向こうの広場には美しい噴水が立ち上り、その周囲に同じ受験者と思われる者たちが屯っていた。結構な大人数、ざっと50名くらいだろうか。

 足を踏み出し、集団に近づく。年齢層は30〜40代前後、念入りに武器を手入れしたりただ目を閉じて壁にもたれかかっていたりと行いはまばらだが、皆揃って厳格な顔つきをしていた。そこに齢15やそこらの少年の居場所を探すのは難しい。俺は早くも半ば孤立した気持ちになった。

 集団を見回すと、一部だが俺と同じ歳くらいの子どももいる。話しかけようか、と一歩目を踏み出した辺りで、ちょうど一人の男がバンッと扉を開いて入ってきた。

「にぃ……しぃ……ろぉ……全員いるか?まぁいいか。お前ら、集まれ」

 男は噴水の前に参加者たちを集める。集まった強面たちに気圧される様子もなく、気怠げに語り出した。

「ごきげんよう勇敢な受験者諸君。俺はゼーテ、当試験の監督を務める者だ。……まず初めに、ここは『悪魔狩りの協会』の狩人を選別する試験の会場になるが、知らずに来たって馬鹿はいないな?」

 しん、と場が静まり返る。知らずに来たといえば来たのだが、ここは黙っておくことにする。

 ゼーテ、と名乗った男は、偏屈オーラ満載の怠そうな男だった。長く伸びた黒髪はボサボサで、頼りなく開かれた目の下の隈もひどい。身につけた薄手の黒コートのような服のおかげで何とか体裁を保っているという感じだ。

「では、この試験の概要を説明する。内容はこの街の模型の中で一時間生き残ること。それを達成できたものは全員合格とする。ただし諸賢らの推測通り、ここはただの安全な街などではなく我々の配置した恐ろしい悪魔どもが跋扈する。その対抗策は、皆既に持ち合わせているな」

 ゼーテは先頭の男が持つ銀の剣を示した。当たり前だ、と言わんばかりに指された男は頷く。

「失格の条件だ。一に悪魔との戦闘云々で試験の 継続が困難だと判断された場合。二にこの模型の外に出た場合。三に死んだ場合。試験中はお前たちが死に目に遭わんよう目を利かせているつもりだが、まぁ不慮の事故ってのは付き物だ。勇敢なる諸賢らは、くれぐれもそういったことのないように。ああ、それとここにいる者で徒党を組んで動いても構わん。そっちの方が余計な怪我人も出ずに済むだろう」

 どちらかというと「死なれたら迷惑でかなわない」という具合に、最後の辺りをゼーテは説明した。

 「質問は……ないでいいな。では、これより10分の後に試験を開始する。……あ、まだ始まんねえのかって?まあ何だ、こっちにも用意があるんだよ。10分後に合図をするから気を抜かないように。以上解散」

 反論の言葉をこぼす受験者を適当にあしらった後、ゼーテは首の後ろを掻きながら街の奥の方へと消えていった。

 ゼーテがいなくなるやいなや、試験監督たる彼の態度に対しての不満がそこかしこから噴出した。せっかく気合を入れていたのにと言わんばかりに、大半の男たちが不貞腐れたように方々へと散っていく。俺自身もその反感はわからないでもない。

「あ、あの!」

 背後から呼ぶ声がした。少年の声。振り向くと、先ほど俺が声をかけようとしていた同年代らしき少年が立っていた。

「その……もしよかったらなんですけど、試験中一緒に行動しませんか?い、嫌だったら全然いいんですけど、その、不安で――」

 消え入るような弱気な声で少年は語る。願ってもない申し出。俺は応えた。

「もちろん、ちょうど俺も仲間が欲しいなって思ってたとこだ。俺はレックス。レックス=ロビンソンだ。よろしく」

「……!あ、ありがとうございます!あ自己紹介……えと、僕はマイラ=モイルっていいます。その、マイラ、って呼んでください!」

「ああ、よろしくマイラ」

 マイラは安堵した様子でほほ笑む。出会ったばかりでも同じ心境らしい仲間がいたことに俺もほっとした。

「ちょっとちょっと!な~にのんきに楽しそーにお喋りしてんのかしらっ!これから命がけの試験が始まるってのに、ホンット危機感ない奴らだわっ!」

 今度は横からでかい少女の声がした。緋色の髪を後ろで結んだ勝気な少女が腕組みして横目でこっちを見ている。

「あ~あ!子供だけであんな調子で試験に臨むなんて、本当心配んなっちゃうわ~!せめてこの私、リン=アドールが側についていれば安心できたのになあ~っ!」

「……えと、それじゃあ、リン?よかったら俺らと一緒に――」

「あらあらあら仕方ないわねっ!そこまで言うんだったら一緒に行ってあげないこともないかなあ~!ふふふ!」

 少女はこちらが言い切るともなくずいっと詰め寄ってきて満面の笑みを見せた。

「私はリン。よろしくねレックス、マイラ!」

「あ、ああ。よろしく」

「えと、よろしく、お願いシマス」

 リンに圧倒されたどたどしく返す。まだ名乗ってないのに、マイラとの会話を聞いていたのか。ルンルン気分で小躍りでもしそうなリンを前に、もっと早く声をかけてやればよかったな、と思う。

 ふと、レックスが視線を向けた先にもう一人同じくらいの歳の少年が見えた。しかし声を掛けてみようかと一歩足を踏み出した途端、蛙を睨み殺してしまうような鋭い眼光を向けられたじろぐ。話しかける以前の明確な拒絶にレックスは軽くショックを受ける。頬に傷を負うショートヘアの少年の横顔は、蛙を呑む蛇というよりはさながら飢えた虎のようであった。


  

『あー、テステス。これ音拾ってるよな?お前ら、聞こえるか。聞こえたなら……そうだな、おっきい声でハーイって言ってみろ。放送(こっち)にも届くくらいの声でな』

 どこからともなく放送の声が響き渡った。このやる気のない声の主は間違いなくゼーテだ。彼は返事を要求したが、屈強な男どもは眉間のしわを深くして沈黙を貫く。

「ハーイハーイ!ちゃんと聞こえてるわよー!」

 リンが大きく声を上げる。そしてレックスらを「何で黙ってんのよ」と言わんばかりに見つめる。

『オーケー。じゃあ始めるぞ。用意はいいな』

 カチャと武器を構える音が聞こえる。場にいる受験者たちは皆身を締め直した。男たちは歴戦の傭兵といわんばかりの風格を放っている。

『よーいはじめ、っつったら始めな。ああ、今のは違う。まだ始まってないぞ。今からだ』

 しかしその威容は、試験開始直後に音を立てて瓦解することとなる。

『よぉーい……はじめっ』

 ドガアァァンッ!!

 ゼーテの始めの合図の直後、不意に受験者たちの集まる噴水広場を包み込んだ黒い影。空から降り来る巨大な体躯の鰐のような悪魔の登場に面々は狼狽える。

「グオオォォォォォォォォォォッ!!」

 悪魔が大口を開けて割れるような咆哮を上げる。ある者は震えて立ち尽くし、ある者は背を向けて一目散に退避し、ある者は剣を抜いて勇敢にも立ち向かおうとする。

「わわわ……あ、あ、あんなのが出てくるなんてぇ……!!聞いてないよおぉぉ!!」

「出ったわねぇこのちんちくりんのデカ悪魔っ!さぁさかかってきなさいっ!!このリン様が相手してあげるわぁっ!!」

「いやいやいや!ダメだリン!マイラ!逃げるぞ!」

「逃げるっ!?逃げるったってどこに――」

「こっちだ!」

 足を震わすマイラと剣を構えるリンを呼び止め、レックスは合図する。三人は一目散に疾走し広場から離れ、側の家屋の窓を突き破り屋内に身を潜める。

「ハァ……ハァ……あ、あんなでっかいのが出てくるなんて……ゼーテさんは何を考えてるんだ……」

「もう!せっかく倒してやろうと思ったのに!戦ってみもしないで逃げることないじゃない!」

「あれは無茶だろ!それに試験の目的は生き延びることだ。わざわざあんなのと戦う必要なんかない。避けられない戦闘だけこなしてりゃいいんだ」

「むぅ……まあそりゃそうだけど」

 リンは口を尖らせてそっぽを向く。対してマイラは走った疲れかそれとも緊張からか、まだぜぇぜぇと肩で息をしている。

「そういや、二人は悪魔と戦った経験はあるのか?やまぁ、なかったらこんな所にはいないと思うけど――」

「な、ないです。僕は今さっき見たのが初めてで……」

 おぅ。まじか。

「私は四〜五回くらいあるわ。この街に来るために夜中も歩くことがあって、それで遭遇した奴らね」

「道中でか。なら俺も同じだな」

 もっとも俺の場合は四〜五回なんてもんじゃなかった。夜出歩けば必ずといっていいくらい遭遇するし、一夜に二度三度戦うことも珍しくなかった。ルー爺がわざと呼んでんじゃないかって疑ったくらいだ。

「とにかく孤立するのは危険だ。なるべく三人まとまって行動して、何かある時はすぐに伝えるようにしよう」

「わかったわ!」

「わ、わかりました!」

 レックスの指示通りに三人はぴったりとくっつき、周囲を警戒しながら進んでいく。不用意に開けた場所には出ないよう、窓から窓へと家々を渡り歩くように動いた。

 最中、突如マイラが家屋の中にて何かに躓くことがあった。

「わ、わわわっ!」

「マイラ!大丈夫か?」

「いてて……すみません。なにか床に落ちてて……」

「なにかって何よだらしないわね。……って、こ、これ爆弾!?手榴弾じゃない手榴弾っ!」

「し、手榴弾!?あわっ、あわわわっ」

 リンが手に取ったそれを慌てて壁に放り投げる。マイラはわたわたと右往左往して机の陰に安置を見出し身を隠す。

 しん、と静寂が流れる。

 やがてレックスが歩を進め壁の方まで歩き、床に転がったものを拾い上げる。

「レ、レックス!危ないわよ!」

「たぶん大丈夫。二人はそこに居ててくれ」

 ピンは……ついている。拾い上げたものの手触りは手榴弾のようだったがなにか違う。表面に何か表記がないかと見てみるが、家屋の中は暗く窓から射す街灯の明かり程度じゃあまり見えない。

「……!レックス!!」

 リンの声で気がつく。振り向くと大きな黒い影が骨ばった腕を振り上げていた――悪魔だ。しまった、建物の中には入り込んでいないとばかり……

「グオオオオオオォォッ!!」

 ダンッ!!

 銃声とともに悪魔のこめかみが貫かれる。撃ったのは、マイラだった。机の陰に隠れたまま小さく頭を出している。気取られることなく相手を撃ち抜く様はまるで熟練のハンターのようで……

「こ、怖かった……レックスさん、その、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。ありがとう」

 次の瞬間には、もとの弱気な少年に戻っていた。

なんだか半端なところで区切れて申し訳ない。次回ボス戦です。どうぞよろしくお願いします。

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