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EPISODE 5 敗北、その後

第五話です。どうぞよろしくお願いします。

呼吸が苦しくなって、目を開く。

 街が炎に包まれている。大きな街だ。見覚えはないが不思議と愛着を感じる街。

 炎は俺を避けるように円を描いて燃えている。周囲には誰もいない。火の爆ぜる音だけが耳を打つ。

 やがて、業火の中から黒い人影がこちらへ向かって歩いてくる。

 人影は炎をものともせず、やがて円の中へ入ってくる。形を掴めないほど黒い。というより暗い。

 やめろ、来るな。そう思っても声が出ない。火の粉を吸い込んで息が詰まる。

 影は歩を進める。座り込む俺と重なる。視界全部が真っ暗になる。




 ………………………………




「……ん、ここは」

 レックスは、質素なベッドの上で目を覚ました。

「よぉ。長いお昼寝だったな」

 側から男の声がする。見るとアンティーク調の小さな円卓と椅子。そしてそこに腰掛けコーヒーを啜る者の姿があった。あの頭から足先まで満ち満ちた偏屈オーラは……

「あんたは……確か試験監督の……」

「ゼーテだ。試験に臨むなら監督の名前くらい憶えとけ」

 ゼーテは短く吐き捨ててコーヒーを一杯啜る。

「俺は一体……そうだ、リンとマイラはッ!?痛っ……」

「あまり動くな、まだ傷が治っちゃいない。一緒にいた二人なら無事だよ。今は医務室で寝てる」

「医務室……ならここは?」

「私室だ。不本意だが付近でベッドがあるのがここだけだったんでな。医務室は既に先客で埋まってた。……まあつまるところ、お前ははみ出し者ってわけよ」

 ゼーテは馬鹿にしたようにけたけたと笑う。これが監督の態度かこれが。

「そうか……じゃあ俺はあの悪魔にやられてたところをあんたに助けられたってわけだな」

「ああそうだな」

「ならやっぱり、試験の方は……」

「ああ、合格だ」

「だよな……ってえぇ!?なんで!?」

「知らねぇーよいちいちでかい声出すな。上の判断だよ。俺の裁量じゃねえ」

「本当かよ?だって俺は……」

「納得いかないってんなら――こっからは俺の勝手な推測になるが、恐らく上の掲げる「狩人の理念」ってやつに合致したんだろうよ」

「狩人の、理念?」

「ああ。お前、どうしてあの単眼の悪魔と戦おうと思った?試験の目的は生き延びることだったはずだ。何もお前一人逃げ切れない状況じゃなかっただろう」

「それは……あそこで戦わなければマイラたちが危ないと思ったからだ。自分だけ助かるなんて都合の良い選択を選べる勇気がなかった」

「まあそんなとこだろうな。幸か不幸かそれが上に気に入られたんだろう。「目の前の敵がどれほど強大であろうと殺す術を考えろ」。それが狩人の理念だ。まあお前らの場合戦い方は悪くない。鍛え方次第だが多分すぐにくたばりはしねえよ」

「「お前ら」ってことは、リンとマイラも……!」

「合格だ。お友達ともども一緒になれてよかったじゃねえか」

「そっか……あぁ、よかった……」

 安堵からレックスは肩を落としてふうと息を吐く。力が抜けて視野が広くなり、周りの物が目に入る。

 暖色に統一された木造の部屋はアンティークを一つのテーマとし、小洒落た小さなタンスやラッパ状の蓄音機、小ぶりの植木などが置かれている。部屋の主の趣向だろうか。ふとゼーテの方に目をやると、コーヒーカップは置いたまま、細長い緑色の何かを手でつまみその中の粒を口の中に放り込んだ。

「その緑色のは?食べ物か?」

「エダマメ、っていってな。東方由来の野菜だそうだが、後味が良いんで最近気に入っている。食うか?」

「ああ、それじゃあ一つ」

「全部やる。そいつは確かに美味いが、コーヒーに合わないのだけは気に食わん」

 レックスにひょいと枝豆をさやごと投げ渡したのち、立ち上がってそのまま部屋を後にした。


 

 療養をとり、レックスも部屋を出る。

 廊下を歩き突き当たりを右に曲がって進むと、医務室の文字が見えた。扉を開く。

「レ、レックス!!よかった生きてる……!!ってかもう傷は大丈夫なの!?ケガは……痛ってて」

 すぐに包帯姿のリンが気づきレックスに向かって走ってくる。そのまま飛びかからんばかりの勢いだが、すんでで傷の痛みを感じ立ち止まる。

「リン!無事だったんだな……!ってかその傷で動いてちゃ駄目だろ。包帯巻きすぎてミイラみたいになってんぞ」

「ミ、ミイラ!?っていうか動いちゃダメなのはレックスも同じでしょ!私ら三人の中でレックスが一番重傷だったんだもの!なのに何でそんなケロッとしてんのよっ!!」

「そうなのか?じゃあマイラは―」

「お、お久しぶりですレックスさん」

 声のした方へ向き直るとマイラが、怪我人風体ではあれど確かにこの中では一番軽傷っぽい様子で立っていた。だがその表情は暗い。

「マイラ!よかった無事で……!」

「は、はい。僕は大丈夫です。……その、申し訳ありません!僕が足手まといだったばかりに二人を危ない目に遭わせてしまって……本当に……!」

「そんなことない。マイラの力があったから俺たちはあそこまで戦えたんだ。足手まといだなんて誰も思っちゃいない。そうだろリン」

「あったり前じゃないの!!ほらマイラ早く顔上げなさい!せっかく皆で合格したっていうのに、湿っぽい雰囲気なんか許さないんだからねっ!!」

「うん……ありがとう、ございます……!」

 マイラは顔を上げ涙ぐむ目元を拭って笑みを浮かべる。

「それとマイラ。ついでと言っちゃなんだが、これからは敬語はナシだ。俺たちはもう仲間になったんだから」

「え、あっはい!あっえと……う、うん!分かりま、わ、分かったデス!」

「あははは!マイラ変なんなってるわよ〜!」

 一気にたどたどしくなるマイラがおかしくて、リンが笑い声をあげる。つられてレックスも笑えてくる。

「……そういえば、結局あの後どうなったんだ?俺があの悪魔にやられて、気づいたらゼーテって監督のとこで看病されてた訳なんだが」

「そう!あのゼーテって人、最初はやる気なさそーな人だなーって思ってたけど、すごかったんだからね本当!」

「凄かったってことは、やっぱりゼーテがあの悪魔を倒したのか?」

「うん。間一髪のところで助けに入ってくれて、一瞬であいつをやっつけちゃったんだ」

「そうよそうよ!なんかもう、本当!本当すごかったんだからねっ!」

 すごいをとにかく連呼しながら、リンはその時の出来事を矢継ぎ早にレックスに話した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 バシャアァッ!!

 勝利を確信した直後、リンが目の当たりにしたのは無残に切り刻まれるレックスの姿だった。

「……レ、レックスゥゥゥゥッ!!」

 奴の爪による乱斬撃を、あの至近距離で喰らった。同じ攻撃を何度かかすめたリンには、生存が絶望的であることがよくわかった。

「そんな、私のせいで……?お願い起きて……!!死んじゃ嫌……ッ!!お願いだから……」

 目に涙を溜めながらリンはレックスに呼びかける。何度も呼びかける。応答はない。

 そしてその隙を、冷徹な悪魔が逃すはずはない。

 剥き出しの惨爪が、リンの頭上に振りかざされた。

「…………ッ!!」

 ズバンッ!!

 攻撃は、しかしてリンに届くことなく潰える。その瞬間悪魔は右腕を失った――斬られたのだ。一瞬の間隙に加えられた斬撃によって。

「あんたは……ゼーテ……さん……?」

「下がってろ。んでよく見てな」

 ゼーテが短く吐き捨てるのとほぼ同時に、悪魔はすかさず残った左腕で苛烈な斬撃を繰り出した。悪魔にしても突如現れた正体不明の脅威に対するほぼ反射的な攻撃。ゼーテはそれを剣で弾く。認識すらまともに及ばない高速の攻防にリンの脚は自然と後退する。


 ギャンッ‼︎ギャギャギャンッ‼︎ガインッ‼︎


 隻腕となってなお苛烈さを増す悪魔の爪撃を、ゼーテは剣一本でいなし続ける。一連の動きをリンは目で追うことすらかなわない。耳をつんざく激しい金属音が響き続ける。

 ふと、ゼーテはふわりと後方へ飛んで悪魔と距離を置いた。一瞬、悪魔の攻撃が止む。

 刹那、


 ドッ


 瞬きの間に、ゼーテの剣は悪魔の巨大な単眼を刺し貫いていた。

「ガッ……アァ……」

 突き刺したままの剣を素早く振り抜き、一瞬の内に悪魔の四肢を切断する。悪魔の身体は塵と化し、中空へと消えていく。

「す、すごい……どうやってあんな……」

「別にすごくねえ。言っとくが俺が使ってる装備はお前らのと全く同じものだ。多少の技量と知識があれば誰にだってできる」

 ゼーテは抜き身の剣を鞘に収め、リンに振り向く。

「だがまあ、お前らは戦い方は悪くない。その多少の技量と知識を身に着けられるようせいぜい精進することだな」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「そうか……そんなことが」

「ね!すごいでしょ!ねね、私らもいつかあれくらい強くなれるかなぁ!なれるよねっ!」

「それはレックスに聞くことじゃないよリン。きっと僕らのこれからの努力次第だ」

 マイラに水を差され、リンは露骨にほほを膨らませる。

「むぅ!さっきまで変な喋り方しかできなかったくせにぃ!」

「へへん!僕はもうスイッチを切り替えたのさ!」

 頭の横をトントンと叩き鼻を鳴らして言うと、リンは更にほほを膨らませマイラを見た。

ようやく試験に区切りが付けられました。ゼーテ君もかっこいいところが見せられて喜んでいるようです。次回から本格的に協会を深堀っていきます。

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