第2話|不安と支え
医師の説明は穏やかだったが、その内容は決して軽くはなかった。
「双子でございますので、母体への負担は通常より大きくなります。
安静を第一に。無理は厳禁でございます」
ディートリヒは一語一句逃さず聞いている。
「具体的には?」
低い声。
「長時間の外出は控え、階段の昇降も可能な限り避けていただきます。
公務も最小限にお控えください。」
わずかな沈黙の後、短い返答。
「分かった」
それだけで、決定だった。
医師が退出し、室内に静寂が落ちる。
リリアーナはゆっくりと身を起こした。
「大事になりすぎではありませんか?」
「足りないくらいだ」
即答だった。
「双子だ」
その一言に、すべてが込められている。
彼は窓際に立ち、庭園を見下ろしていた。
背中が、硬い。
「ディートリヒ様」
呼んでも、振り向かない。
公爵の背中だ。
リリアーナは小さく息を吸う。
「……あなた」
肩が、わずかに揺れた。
それでも、まだ振り向かない。
だから、静かに名を呼ぶ。
「ディートリヒ」
名を呼んだ瞬間、彼ははっとしたように振り向いた。
そこにあったのは、冷徹宰相の顔ではない。
迷いを抱えた、一人の男の瞳。
言葉はなかった。
ただ、揺らいでいる。
リリアーナはゆっくりと彼の前に立つ。
「お一人で守る必要はありませんわ」
そっと、その手に触れる。
「四人で生きていくのです」
静かに微笑む。
彼は何も言わず、彼女を抱き寄せる。
強くはない。
けれど、離さない。
その抱擁に、ほんのわずかな不安と、確かな決意が滲んでいた。
夜ーー
寝台に横たわり、部屋の灯りは落とされている。
初夏の風が、薄く揺れる天蓋を撫でていた。
リリアーナは彼の腕の中にいる。
いつもより、わずかに強い抱擁。
「苦しくありませんか?」
小さく問う。
「問題ない」
即答だった。
だが、彼は眠っていなかった。
呼吸が浅い。
規則正しいふりをしているだけだと、分かる。
しばらくしてーー
彼の指先が、そっと彼女の額に触れる。
熱を確かめるように。
次に、腹部へ。
触れるというより、確かめるような、ためらいがちな手。
まだ何も変わらないそこに、確かに二つの命がある。
彼は、また眠らない。
何度も、呼吸を確かめる。
腕を緩めては、すぐに戻す。
まるで、失うことを恐れているかのように。
リリアーナは目を閉じたまま、そっと彼の手に自分の手を重ねた。
大丈夫です、と言う代わりに。
彼の指が、わずかに止まる。
そして、静かに絡められた。
言葉はない。
だが、その手はもう離れない。
暗闇の中で、二人はただ、同じ鼓動を確かめ合っていた。




