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冷酷宰相は私だけを甘やかす  作者: 絵宮 芳緒
政略と愛

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第5話|正式婚姻

王都――大聖堂。


天井高く、彩色ガラスから差し込む光が、荘厳な空間を柔らかく照らしていた。

長椅子には貴族たちが整然と座り、神聖な静けさが支配している。


リリアーナは控室で、母とともに最後の身支度を整えていた。

純白のウェディングドレスが柔らかく光を受け、淡い青色の瞳に決意の色を映す。

栗色の長髪は高く結い上げられ、小さな真珠や白い花が飾られ、首筋を清らかに見せている。


アデリーヌの後ろに控えるヴィクトルは、低く姿勢を保ち、視線も伏せている。

しかし心の中では、かつて妻を裏切った夜の記憶、幼いリリアーナの笑顔、そして泣いた妻の背中が突き刺さっていた。


「私は、父である資格などなかった」


それでも今、娘は自分を“父”として式に呼んだ。

この瞬間、胸に救いが生まれる。


二人はゆっくりと大聖堂の祭壇前へ歩み出る。

光が降り注ぐ中、ディートリヒは黒の正装で階段を下りる。

その存在感は圧倒的で、誰もが無意識に視線を向け、呼吸を少し止めるほどだった。

言葉を発さずとも、この結婚式の中心は彼であり、すべてが彼の一歩一歩に引き寄せられていることが明白だった。


牧師の祝詞が響き、静謐な音楽と光の反射が二人を包む。

ディートリヒが低く確かな声で宣言する。


「リリアーナ、私はあなたを妻として迎えます」


リリアーナは胸を張り、誓いの言葉を返す。


「ディートリヒ様、私もあなたと共に歩むことを誓います」


指輪を交わす瞬間、彼の親指がそっと手の甲をなぞる。

無意識の仕草でありながら、確かな独占の証だった。


控室に戻っても、式の余韻が残り、静けさの中でヴィクトルは一歩退き、深く頭を下げる。

かつての伯爵だと信じて疑わなかった男とは思えないほど低く、声は掠れている。


「……私は、もう何も与えられん」


「だが――あの子を愛してくれて、ありがとう」


沈黙が続き、ディートリヒは一瞬、ヴィクトルを見つめた。


「当然のことをしているだけです」

淡々と答え、ゆっくりと、一礼。

それは義務でも勝者の余裕でもなく、家族への敬意としての礼だった。


ヴィクトルの指先は震えているが、涙は堪え、胸の奥に安堵が広がる。


披露宴のため、二人はシュヴァイン公爵家の大広間へ移動する。

光沢のある床、整えられた装飾、王都の諸侯や重鎮貴族たちが整列し、二人を迎える。

ディートリヒは黒の正装で堂々と歩き、リリアーナの手を軽く握る。

歩を進めるたび、彼の掌の温もりが微かに伝わり、リリアーナは自然に意識を集中させる。

リリアーナはドレスを美しく整え、胸元に手を軽く添えながら堂々と歩く。

階段で揺れるレース、飾られた真珠や花々、栗色の長髪と淡い青色の瞳が光を受けて輝く。


二人が並ぶと、広間全体の視線が自然と吸い寄せられる。

しかしディートリヒの視線は常にリリアーナに向けられ、控えめながらも意識させる巧みな距離感を保つ。

会話の合間にも、手を添えたり、肘や背中にそっと触れたり。

仕草は軽く、周囲には気づかれないが、リリアーナの心には確実に伝わる。


「今日は……少し緊張しますね」

控えめに微笑みながら呟くリリアーナに、ディートリヒはわずかに微笑を返す。

彼女の声や呼吸のリズムを聞き取り、指先に伝わる感触で安心を与える。


二人の立ち居振る舞いは堂々として揺るがず、披露宴の空気を支配する。

会話や乾杯の挨拶の間も、ディートリヒはリリアーナにだけそっと気を配る。

その仕草は外向きには控えめだが、二人の間では確かな親密さを示すものだった。


夜が更け、招待客が退いた後、二人は新たな寝室へと導かれる。

暗がりの中、長い一日の緊張が少しずつ解けていく。


「リリアーナ……」

ディートリヒが名前を呼ぶ。


「……はい、ディートリヒ」

彼女の声は落ち着いているが、鼓動は早い。


手を取り、体を寄せ、互いの呼吸を感じながら、静かに、しかし確実に愛を確認し合った。


朝、柔らかな光が窓から差し込む。

リリアーナはディートリヒの隣で目を覚まし、微笑みながら手を差し出す。


「おはよう、リリアーナ」


低く柔らかい声音に、彼女は自然に応える。


「おはよう、ディートリヒ」


初夜の余韻を残しつつも、二人の間に流れるのは信頼と確かな絆。

ベルナール家、シュヴァイン公爵家、そして二人の未来を支える日々が、静かに始まったのだった。

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