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冷酷宰相は私だけを甘やかす  作者: 絵宮 芳緒
政略と愛

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第2話|爵位分割構想

執務室には、午後の淡い光が差し込んでいた。


会議は終わった。

だが、決まったのは「方向性」だけだ。


実務は、これから始まる。


ディートリヒは机上に広げられた家系図と領地図に視線を落としている。


リリアーナはその向かいに座っていた。


「ベルナール伯爵位を次子へ継がせるとしても、形式上は王家の裁可が必要になります」


「当然だ」


短い返答。


「公爵位は長子。これは不動。だが、伯爵位の扱いは整理が要る」


シュヴァイン公爵家。

そしてベルナール伯爵家。


二つの家門を、いかに無理なく未来へ繋ぐか。


「名目は“家門安定のための制度整理”がよろしいかと」


リリアーナは静かに続ける。


「兄弟間の争いを未然に防ぐという大義名分は、王家も無下にはなさらないでしょう」


「理屈は通る」


だが、とディートリヒは視線を上げた。


「感情は別だ」


王家は常に均衡を見ている。

公爵家が独自に勢力を拡張する動きと受け取られれば、警戒は避けられない。


「ゆえに、申請の文面は慎重に整えましょう」


リリアーナは迷いなく言う。


「爵位の増強ではなく、あくまで既存爵位の継承整理。

公爵家の権勢拡大が目的ではないと、明確に」


数秒の沈黙。


やがてディートリヒは、小さく息を吐いた。


「……父なら、もっと苛烈に進めただろうな」


その言葉に、リリアーナの指がわずかに止まる。


先代公爵。


領地に退いてなお、影響力を失ってはいない存在。


「領地にも、今日の議題は伝わっているはずだ」


「はい……」


王都の動きは早い。


やがて書状が届くだろう。

あるいは――


「戻ってくるかもしれない」


低い声。


それは可能性ではなく、予測だった。


先代公爵が王都に足を運ぶとき。

それは、家の重大事に他ならない。


リリアーナは背筋を伸ばす。


「お義父様とお義母様にも、ご説明申し上げる覚悟はできております」


ディートリヒが静かに彼女を見る。


「簡単な相手ではない」


「承知しております」


迷いはない。


「ですが、未来を整えるのは、今を預かる私たちです」


その言葉に、彼の目がわずかに細められる。


「……頼もしいな」


「隣に立つと決めましたから」


ほんのわずかに、室内の空気が和らぐ。


だが。


机上の家系図に落ちる影は、決して軽くはない。


長子に公爵位。

次子に伯爵位。


その未来図が、現実となるまでには――

王家の裁可。

そして先代の承認。


二つの壁が立ちはだかっている。


窓の外では、冬風が庭木を揺らした。


嵐の兆しか。

それとも、新たな時代の胎動か。


いずれにせよ。


シュヴァイン家の未来は、いま静かに動き始めていた。

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