第4話|セリーナの末路
ヴァネッサが処罰を受け、館内に重い空気が漂う数日後──
ベルナール伯爵家の屋敷奥深く、静寂だけが支配する部屋に、セリーナは呼び出された。
護衛が少女の前に立つ。
「セリーナ、これより館外へ移送する」
低く、無感情な声。
「な……何を……」
声を詰まらせ、少女は恐怖で視線を泳がせる。
目の前の護衛たちは、情け容赦のない目で彼女を見据える。
セリーナの心の奥底は、嫉妬と恨みが渦巻いていた。
“なぜ……リリアーナが……私ではなく……!”
才色も権力も、何もかも──すべて彼女に与えられ、私は……。
数年前、密かに母と計画を練っていたときの記憶が甦る。
“リリアーナより、私が輝くはずだったのに……!”
思わず拳を握り、机を叩きそうになる自分を押さえる。
しかしその瞬間、母の声は遠くで告げる。
「焦ってはだめよ……全ては計画通りに進んでるのだから」
今はもう、その母の声も届かない。
涙が滲むが、声にはならない。
残されているのは、冷たい廊下と、彼女を導く護衛だけだった。
護衛は無言のまま、少女の両手を軽く押さえ、歩を進める。
石畳の廊下を通り、扉の向こうへ導かれる。
一歩一歩、自由を奪われる恐怖が胸を締めつける。
“リリアーナ……私の代わりに何もかも手に入れた……”
小さく呟いたその言葉に、恨みと嫉妬が混ざる。
館の静寂は、彼女の胸のうちを一層鋭く刺す。
扉の向こうには、ディートリヒの冷徹な視線と、任務に従う護衛たち。
救いの手を差し伸べる者は誰もいない。
背後で扉が閉まる音が響いた。
屋敷の静寂は再び深まり、セリーナの末路を覆い隠すように、冷たい闇が広がった。




