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冷酷宰相は私だけを甘やかす  作者: 絵宮 芳緒
断罪

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第3話|ヴァネッサ処罰

粛清の余韻がまだ広間に残る数日後、ヴァネッサは館の奥深くに呼び出された。


大広間とは違い、ここは人の気配がほとんどなく、ただ重い空気が漂っている。

薄暗い廊下を抜け、扉を開くと、執行のために整えられた書斎のような空間があった。

静寂が支配し、空気は一層重く張り詰めている。


「ヴァネッサ、あなたの処遇を決定する」


ディートリヒの声は冷静そのものだが、その響きは逃れられぬ決定を告げていた。


「理由は明確だ。家門の秩序を乱し、当主と後継者に不義を働いた」


ヴァネッサは微笑みを浮かべ、わずかに肩をすくめる。

その瞳の奥には、静かだが確かな決意が宿っていた。


「あなたの罪は重大だ。従うか否かに関わらず、規律に従わなければならない」


使用人たちが控える中、ヴァネッサは軽く息を吐く。

この場には、ヴァネッサとセリーナ、そして数人の使用人しかいない。

今日はヴィクトルの姿さえ、見かけなかった。


微かな揺れも見せず、ただ目の前の現実を見据える。


「処罰の内容は、家門の規則に従う」

ディートリヒがゆっくりと書類を広げる。

そこには、詳細な処遇と守るべき規律が列挙されていた。


「この処置は、あなた個人への復讐ではない。

家の秩序を守るためのものだ」

ヴァネッサは頷き、静かに書類を受け取る。

その手は震えていない。


「しかし、覚えておきなさい」

ディートリヒの視線が一瞬、鋭く彼女を射抜く。


「家の未来を脅かす者は、たとえ家族であれ、ヴィクトルのように同様に裁かれる」


ヴァネッサは目を閉じ、心の中で計画を整理する。

これもまた、予期していたことの一つにすぎない。


「終わりではない……」

小さな声が、誰にも届かないまま石壁に吸い込まれる。


ディートリヒの護衛が彼女の前に立ち、静かに指示を待つ。

ヴァネッサは淡々と立ち上がり、任務を受け入れるように歩き出す。

背筋を伸ばし、顔には冷たい光が戻っていた。

これで、彼女の処罰は公式に決定された。

だが、心の奥では、まだ全てを掌握している自信が消えたわけではなかった。




数日前――

ヴィクトルに事実を告げ、裏社会の男に裏切られた後のこと。


ヴァネッサはベルナール伯爵家の書庫にいた。

埃をかぶった古文書や蔵書を広げ、ページをめくるたびに家宝に関する秘密が少しずつ明らかになる。


ペンダントによる加護が当主に由来すること、

そして当主は不思議な力を得ること。


「ふむ……なるほどね」


ヴァネッサは唇を引き結び、深く息を吐く。

焦りと不安が入り混じる中でも、策を練る目は冷静だった。


その横で、セリーナが手にしたペンダントを見つめる。


「これは……本物よ!」


少女の声には、自分の直感と母ヴァネッサの指示を信じる迷いなき決意が込められていた。

リリアーナの持つペンダントとすり替えた今も、宝石は淡い光を放っている。

これで、もう一度取り戻せるかもしれない。

これをエサにリリアーナをうまく操れば良いのだ。




再び、現在――


罪状を粛々と読み上げるディートリヒの声を聞きながら、ヴァネッサは時を待っていた。


「何か、異論はあるか?」


「あります!」

位を決したように、ヴァネッサは応える。


「申してみよ。」


「アデリーヌ様は、リリアーナではなく、我が娘セリーナを後継者として選ばれました!これが、その証拠です。」


その横で、今まで黙っていたセリーナが、ペンダントを掲げる。


「……それは?」

ディートリヒは、それを一瞥する。


「ベルナール伯爵家の家宝です。

前当主のアデリーヌ様が、ヴィクトルとその娘に悲観されて、今際の際に私とセリーナに託されたのですわ!」


セリーナの手元でペンダントは淡く光を放つ。


「それが本物だという確証は?」


「アデリーヌ様は亡くなられました。

それを証明するのは難しいかと…」


「……だ、そうだ。アデリーヌ殿、リリアーナ嬢、こちらへ」


ディートリヒの言葉に、扉が開き、リリアーナが入室し、その後にアデリーヌが姿を現した。


「アデリーヌ……?」

そこに立っていたのは、死んだはずの現当主アデリーヌだった。

静かに、しかし確かな存在感をもって。


その登場は、ヴァネッサとセリーナに衝撃を与えた。


「驚いたかしら。生きていたのよ」


アデリーヌの声は穏やかだが、含む意味は重い。


「私は貴方方に、家宝を託したりしないわ。

しかも、我がベルナール家の家宝は、ただ持っていても意味はないの。

宝石は後継者の瞳の淡い青に反応する。

偽物が近くにあれば共鳴して砕け、

本物に直接後継者以外の者が触れれば濁るの」


ヴァネッサが息を呑む。


---


アデリーヌはリリアーナの胸元に輝くペンダントに触れた。


「こうして、当主が触れれば、共鳴して近くにある偽物に反応するのよ」


その瞬間、セリーナの手元の宝石は崩れさった。


「さて、私が貴方の娘を後継者に指名したというのは、本当かしら?」


アデリーヌはペンダントをセリーナに触れさせる。


瞬間、宝石の色が濁り、確かにそれが本物であることを示す。


「……これで、貴方の計画は終わりね」

アデリーヌは淡々と告げ、ディートリヒの護衛が静かに二人の前に現れる。


ヴァネッサは、握りしめていた策の切り札が崩れ去ったことを悟る。


セリーナは混乱し、母の思惑も計画も、ここで頓挫した。


ディートリヒの護衛に連れられ、二人は書斎を後にする。


その背中に、ヴァネッサはまだ微かに策を練ろうとする影を落としたが、伯爵家の掌握計画は、確かに終焉を迎えていた。



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