第1話|裏社会の影と揺れる絆
夜の静寂に包まれた伯爵邸。
リリアーナは深い眠りに落ちていた。
その瞬間を狙い、ヴァネッサは忍び足で寝室に忍び込む。
室内を静かに見渡し、化粧台の前に置かれた宝石箱に目を留めた。
迷いのない指先が箱を開き、巧みに宝石をすり替える。
リリアーナは微睡むだけで、何も気付かない。
ヴァネッサは満足げに本物の宝石を布袋へしまい込み、静かに部屋を出た。
――だが。
その一部始終を見ていた黒衣の影が、音もなく動く。
宝石箱へ近づき、残された偽物を静かに回収した。
音もなく廊下へ出る
一瞬だけ振り返り、暗闇の奥へ視線を向けた。
主の命は絶対――守るべきは、ただ一人。
そして何事もなかったかのように、闇へと溶ける。
ヴァネッサは自室へ戻ると、布袋を机の引き出しにしまい込み、鍵をかけた。
確かめるように指先で引き出しを押さえ、満足げに息を吐く。
「これで……すべてが動く」
完全に成功したと、彼女は信じて疑わなかった。
やがて、ヴィクトルの部屋へ向かう足音が廊下に遠ざかる。
――次の瞬間。
黒衣の影が、音もなくその部屋へ侵入する。
鍵は、意味をなさなかった。
引き出しの中身は、わずかな時間で入れ替えられる。
誰にも気づかれぬまま、偽物だけが残された。
リリアーナは夢の中で、穏やかな温もりを感じながら眠り続けていた。
宝石箱の中、本来あるべき場所へ戻された石は、静かに淡い光を宿している。
守る者の存在と、潜む脅威――
二つの重さが夜の静寂に溶け込み、やがて訪れる“真実の崩壊”を静かに告げていた。




